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オトコノヒトドウシみたいな。 「おい!テメェそれ俺のじゃねぇか!」 「へっ、ちんたら喰ってるからいらねぇのかと思っちまったぜ」 「んだとぉ!!俺はそれが好きだから最後まで取っておいたんだ!」 「好きなら最初に喰っちまえよ。ややっこしいだろうが」 「テメェが人のモンにまで箸つけるのが悪いんだろうが!俺には俺の喰い方があるんだよ」 「こっちだって必死なんだよ!大体これっぽっちの飯で俺が足りると思ったのか?」 「そういうことは俺じゃなく、」 そこで音が鳴った。 稀に聞かない爽快な音だった。 ○ 〔*〕 「ん…」 意識が朦朧とする。 あれ?何があったんだ…って飯!! 勢いよく身体を起こし、 再び音が鳴った。 実に響きの良い音だった。 「痛ってぇぇぇ〜〜!」 「あいたた…」 誰かとぶつかった。そう解釈して涙ぐんだ目を必死に擦る。 徐々に視界が晴れてきて、それがドリィだと気づく。 「なんだ、ドリィか」 「わ、若様。大丈夫ですか?」 涙ぐんだ目で、額を押さえながらドリィが言った。 「あぁ、それよりお前は大丈夫か」 「はい。僕は大丈夫です。相手が…若様だったので」 毎度毎度何故ドリィにグラァはこうなのだろうか。 今度ばかりはちゃんと言った方がいいかもしれない。 俺にその気はないと。 決意するや否や、オボロは早速告げる。 「あのな、お前はまたそういう…」 がちゃん、と何かが割れる音がした。 見ればエルルゥが立ちつくしている。 足下には盆と割れた湯飲み。 そして衝撃の一言。 「お、男の人同士…」 脱兎の如くエルルゥは駆けだした。 心なしか顔が赤く、口元が緩んでいた気がする。 「お、おい…」 私室に男がふたり。 涙ぐんだドリィ。 ――それよりお前は大丈夫か ――僕は大丈夫です。相手が…若様だったので おいおい! 「待て!誤解だ!」 オボロは勢いよく跳ね起き、エルルゥの後を追った。 残されたドリィが毛布の残り香で悦ったのは言うまでもない。 ○ エルルゥの足は速かった。 そして噂というものはそれよりも早く広まるものである。 心なしか俺を見る他人の視線が何とも…。 くそぅ。誤解だ誤解! 「俺にその気はねぇぇぇ!!!」 オボロは咆吼した。 と、そこへ現れるベナウィ。 「オボロ、聞きましたよ」 「な、何をだ…」 「まさか貴方にその気があったとは…。驚きました」 「いや、だからそれは誤解だ!」 フッ、とベナウィは鼻で笑った。 「何だテメェ、信じてないだろ!」 「いえ、必死に否定するところが怪しいと言えばいいのでしょうか?まぁ私には一生わからないというかむしろ絶対に理解したくない世界ですので。でも、そういうのもありだと思いますよ。年長者の意見ですが、恋愛というのは自由です。これからも末永くお幸せに」 「ああ〜〜〜〜もういい!!」 ベナウィを背に再び駆け出すオボロ。 ダメだ。このままじゃ噂は広まる一方だ。 しかも噂というのは本人の意志を無視して面白いように脚色され広がる。 「よう、オボロ。お前嫌がるドリィを無理矢理…」 取りあえずクロウを殴り飛ばした。 「わっ、アルちゃん近寄っちゃダメだよ。見境無いって言ってた」 「ん。わかった」 くそう。女子供にまで広まってやがる。 ひとりひとり弁解しても時間の無駄だ。 そうしてる間に噂は光の如き速さで広まっていく。 エルルゥを…、元を絶たねば…。 ○ 「とうとう追いつめたぜ」 肩で息をし、倉の中に逃げ込んだエルルゥを追いつめたオボロ。 「やっぱり…。自分の欲望のままに人を襲うって噂は本当…」 「お前が流した噂に尾鰭がついてそうなったんだろうが!」 もう謝って許される域を超えている。 そう、俺は人としてその名誉を汚されたのだ。 「ちゃんと皆に説明してもらうぜ。あれは嘘でしたってなぁ」 じわじわとエルルゥに近づくオボロ。 徐々にその距離が縮まる。 「むっ、ユズハ。見てはダメだ。お前のお兄さんは決して倉にエルルゥを追いこんで今まさに襲いかかろうとなどしていない」 スッ、とハクオロの手がユズハの目を覆う。 勿論ユズハは元々目が見えないのだが。 「な、兄者!何をッ!!」 そうだ忘れていた。 噂はユズハの耳にも…。 違うユズハ。誤解だ。誤解なんだ。 俺は決してそんな兄ではないんだ。 あぁそんな目で俺を見ないでくれユズハ←見えてない。 お前だけは信じてくれ頼む。 「お兄さま…」 ユズハの顔が笑顔になった。 オボロにはそれが天使の微笑みに見えた。 ありがとうユズハ。お前は信じてくれると思ってたよ。 俺はお前に信じてもらえるならこんな噂くそ食らえだ。 言いたい奴は言えばいい。 「変態」 ユズハの唇がそう刻んでユズハの口からその声が紡がれた。 オボロの視界は真っ暗になった。 ――悪魔は天使の微笑みで人を惑わす。 〔*〕に戻る。 |