ドグッ!!
「っ!……」
……鈍い、音がした。
鈍い感触が、腕に残る。
…渾身の力をこめたつもりだ。
歯の一、二本は、覚悟してもらう。
ドゴォッ!!
二発……
ドガァッ!!
三発……
あの時よりも、幾分かは力も増しているだろう。
あの時よりも、ずっと効いているはずだ。
……だけど、ただ黙って、されるがままに、なってくれている。
……ああ、そうだ。
そうなんだ。
この人は、そういう人なんだ……
…………殴ったこぶしが、痛かった……
『涙』
〜オボロ・ドリィ・グラァ〜
…僕が、皇宮に矢を射たのが、つい先ほどのことになる。
……それは、懐かしい、合図。
あの時も、僕がこうやって、あの人を呼び出した。
…あの時は、柵も塀も、なかったけれど。
………僕が…
僕がこの役目をしているのは、単純な理由だ。
ドリィより、遠くに射かけるのが得意だったから。
……直線の威力では、ドリィにはかなわないけれど。
……でも、今回は少し、難しかった。
敵襲と間違われないかと、ずいぶん心配した。
けど……やっぱり、わかってくれた。
矢文も何もついていない矢で、この場所まで、来てくれた。
ユズハ様が眠る、この場所に……
僕にはそれが嬉しくて…
少し、悲しかった。
また、あんな若様を、見続けなければならなかったから…
…僕に、この子を預けようとした時。
どれほど、断ろうかと思っただろう。
この子を抱いたままならば、あんな事はできないから。
……でも…それは結局、若様がつらくなるだけと思って、
僕はこの子を抱いている。
抱いたまま、若様達の様子を見ている。
………ああ、そうしなければ癒せないほど、深いのですね、その傷は…
じっと……じっと目を離さずにそれを見ながら。
僕はグラァに、こう言った…
「………どっちが、痛いんだろうね……」
グラァは何かを噛みしめて、返す。
「…………どっちもだよ……若様も、兄者様も…」
それは、痛かろう。
……なにより、心が。
だけど……僕は首を振る。
「ちがうよ……」
「ちがう……?」
僕が、僕が聞きたかったのは……
「殴りつづける若様と……
……見ているしかない…………僕達だよ」
「…………」
「…………」
「……やっぱり……どっちもだよ……」
握った枝が、パキリ、と折れた……
バキイィッッ!!
「………っ…はぁ…はぁ…」
息をつく。
両手で襟首をつかみ、吊り上げる。
「どうして……だ…」
「…………」
言葉が漏れる…
「……ユズハは、笑ってた」
「……………………」
「友達に囲まれて……子を胸に抱いて……
幸せそうに……笑ってた!!」
「……………………」
額を胸に、押し付ける。
「笑って……笑いながら…
……………………………逝った…」
「…………………そう…か。
……笑いながら……逝ったか……」
ギリッッと、歯を食いしばる。
「ああ…笑いながら……
淋しそうに笑いながらっっ!!逝ったんだっ!!」
「……………………」
「待ってたんだっ!!……兄者を……ずっと……
指に結ばれた髪を見ながら……
それが切れた後も…………ずっと……」
「…………………」
「なんでなんだよ……
なんで……今なんだよ……なんで……」
「……………………すまん…」
「あやまるな……
あやまるなよ兄者…」
「……………………」
「……あやま…るな…よ……」
ああ、まただ。
また俺は、泣いている。
……なんでだろうな。
俺は、もっと強いと思ってたのに…
……ああ、兄者。だけど今は、泣かせてくれ…
あんたはこんな時、泣かないから…
こんな時に、泣けないから……
俺が兄者の分も、泣いてやるから……………
だから……………
………ユズハ……お前の夫は、帰ってきたぞ……
「さぁ、兄者!!抱いてみてくれ!
ユズハの子だ。……兄者と、ユズハの子だ!」
「ああ。
…………ユズハの……面影があるな……」
「……ああ。……ユズハに、そっくりだ。」
「……………………」
「……………………」
「名は……?」
「ん?」
「名は…何というんだ?」
「ああ、そうか。…まだ言ってなかったな。」
「ああ」
「この子の名は―――――
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