星空に、真円描く名月と、
優しく響く蟲達の声。
……こんな夜は、感傷的になる。
『月夜』
〜白皇(序)〜
「……愛した相手の死すら見とれぬとは、な…」
呟いた。
ミコトといい、ユズハといい……
私は、彼女らの死の際に居合わせることができなかった。
………居合わせたなら居合わせたで、正気でいられた自信もないが。
「…………………」
杯を、傾けた。
純度の高い酒が、喉にくる。
……あるいは呪いなのではないかと思う。
過ぎた力には歪みがあるものだ。
失われていくのが、私に科せられた罰なのかもしれない…
「…………そう考えるのは、逃げだろうか?」
誰しも、何かを失っていくものだ。
私だけが、そうなのではなかろう……
「…………ミコト」
月を見上げる。
月は死を司るという……お前はそこにいるのか?
………お前の血は、受け継がれていた。
何百年と、時を隔てて、いま、私の傍にいる…
「…………ユズハ」
お前は星になったのだったな…
あの光はお前だったのか…?
……私はお前の子を抱くことができた。
…お前に似て、可愛い子じゃないか。
「………世話は、やらせてもらえんがな」
大体のことは、オボロがやってしまう。
多少は、私も手を出すが…それもここ二、三日はできていない。
そう、ウルトが滞在しはじめてから、だ。
「……任せてください、とくるとは思わなかったぞ」
……子を抱いた彼女は、やはり美しかった。
本当に、母の似合う人だ。
もう数日は滞在していくらしいが……
フミルィルの件を思い出す。
………………………………
……国を捨てて残る、などと言い出さないだろうな?
……さすがに、な?
「…………しかし……」
……私は、自分の子をまともに面倒を見た記憶がない。
ミコトの子も、ユズハの子も。
父と慕ってくれるムツミにいたっては、
苦労ばかりしかかけていない気がする……
「…………ひどい父親だと思わんか?」
誰にともなく、自嘲気味に問いかけた。
「……そんなこと、ないよ」
「?」
返ってくるはずのない言葉が返ってくる。
振り返ると、そこには…
「カミュ…?………アルルゥ…」
私の『娘達』がいた。
「おと〜さんっ」
ばふっ…
アルルゥが飛び込んでくる…いつものように。
「…………………」
杯をおいて、私はその頭をゆっくりと撫でた。
「♪〜〜〜」
気持ちよさそうにするアルルゥ。
それを、うらやましそうな目で見ながら、カミュは隣に腰掛けた。
「……おじ様は、ちゃんと『おと〜さん』してるとおもうよ?」
「……………カミュ…」
そういって、優しく励ましてくれる。
しかし、そうだろうか…?
本当に、私は、父親になれているのだろうか……
私は……
「ちがう」
「「?」」
唐突に、アルルゥが口を挟んだ。
「おと〜さんは、おと〜さん。『してる』わけじゃない。」
「「……………………」」
ああ、そうか。
そうなのだ。
理屈で父親が決まるわけではない。
父親はなろうと思ってなるものではないということか……
「……そうだね、アルちゃんの言うとおり!
ハクオロさんは、ハクオロさんなんだよね!」
「ん」
私のままで、いいと言ってくれているのだろう。
…………本当に……
本当に……私には、もったいないくらいの娘だ……
「ありがとうな、アルルゥ……」
「♪〜〜〜」
そして、優しい時間が流れる。
アルルゥは私の膝の上で。
カミュは私の隣で。
私はそんな二人を見つめて。
三人共、穏やかな笑顔でいた…………
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