「…………ところで、二人とも。
こんな時間にどうしたんだ?」
「え?え…と…」
「おと〜さんと一緒に寝る」
即答するアルルゥと、言いにくそうにするカミュ。
「?」
「カミュは、その……例の。」
「ああ!」
合点がいった。
「あ〜…後で、な。」
「う…うん。」
カミュの顔は赤い。
おそらく、またのどの渇きを癒すために私のところに来て…
アルルゥとばったり会って、普段のカミュに戻ってしまったのだろう。
……後で、と言ったのは他でもなく。
いかに受けいれられたとはいえ、
人前で血を飲むのに抵抗があることと、
時々血だけでは済まないことがあるからだ。
……アルルゥの目の前でできるわけがない。
「…………………」
「…………………」
「♪〜〜〜」
奇妙に沈黙する二人と、全く意に介していないアルルゥ。
いつまでもその状態が続くかと思ったが……。
「……あら、あるじ様。楽しそうですわね」
と、酒を手にしたカルラが顔を出した。
『宴』
〜白皇(章)〜
「おお、カルラ。どうした?」
「どうしたじゃありませんわ。こんなにきれいな月夜ですもの。
あるじ様と杯を交わそうと思ってきましたの……でも」
少し、淋しそうな表情を『つくる』カルラ。
こういうときの彼女のこれはたいてい演技だ。
「みずくさいですわ、あるじ様。
飲まれるのでしたら誘ってくださればいいのに……ねぇ、トウカ」
と、部屋の入り口の方に呼びかける。
「カ、カルラ殿!気づいて……?
い、いえ、聖上!某、決して立ち聞きなど…」
「…………トウカ?」
いつからにそこにいたのか、
カルラに呼ばれて慌てて弁明するトウカ。
……しかし弁明が自爆につながってるのはらしいと言うか……
「そ、某はただ、そろそろ御側付としてのお役目に
復帰させていただきたいと…」
…………いや、それは勘弁してほしいが。
「ん?どうしたんですかい?んなところで」
「は?…クロウ殿?」
「……クロウ?」
どすどすと、音を立ててやってきたのはクロウだ。
「どうした?珍しいな?」
「いえね、ちょっとあん時のこと考えてたんですが……。
一杯やるって約束したの思い出しやしてね。
外見たらい〜い月じゃねぇっすか。
これはいい機会だってんで、酒を持参してきたんですが…」
と、手に持った酒を見せる。
「おい、入り口に立つな。邪魔だ。でかいの。」
「…………あぁ?」
と、音もなくクロウの後ろにいたのは…
「オボロ……」
「こら、てめぇ、邪魔ってのはねぇだろが!」
「事実を言ったまでだ。でかい図体してそんなところに立つな!」
「ぐ……」
さすがに自分に非がある分、強く出れないクロウ。
………しかし、こいつら………
「おい、人の部屋にまで来てケンカするんじゃない」
「あ……すんません、総大将」
「あ……悪い、兄者」
ふっ、とため息にも似た苦笑をもらす。
ケンカするほど仲がいいとはいうが……
「で、どうしたんだ。オボロ」
「ああ、白い姫さんがユズハの子を見ててくれてるもんでな。
俺はいい機会だから兄者と久しぶりに飲もうかと思ってな」
「酒はやめてたんじゃないのか?」
「…いまだけだ。こんな機会は、もう、そうないだろうしな」
といって、私の前に腰を下ろすオボロ。
クロウも、近くに腰を下ろした。
「……あら、結局みんな同じ考えですのね」
「……先客がこんなにいるたぁ思いやせんでしたよ」
「二人で話したいこともあったんだけどな。まぁ、いいか」
「そ、某は飲みに来たわけでは!!」
「まぁまぁ、そういわずに一献。」
「んぐ!!………ぷはぁっっ!!!
かるらどの、いきなりそれは……」
なし崩しに始まる宴。
こんな夜もいいか、と思う。
「おじ様、なんかすっごく賑やかだね。」
「♪〜〜♪〜〜」
「……………ああ、そうだな。」
「兄者っっ!!」
と、少しして、酔いも回ってきた頃。
突然オボロが私の前に座り、両こぶしを床につけた。
「………オボロ?」
「頼みがあるっ!!」
酔いの上での行動……だが、その目は真剣だ。
……ならば私も、真剣に答えねばなるまい。
「俺はっ!
……俺はしばらくしたら、あの子を連れて旅に出る!!」
それは、前々から聞いていたこと。
あの子に、広い世界を見せる。
そのための旅だ。
「だが、せっかく会えた父親と、
離れて過ごすはあまりに不憫!!
だからっだから兄者!!
俺と一緒に、旅に出てくれっ!!」
「お…おいおい、そりゃぁ…」
クロウが酔いもさめた、と言う感じで声を出した。
「あら、いいですわね。いつかの時のように皆で行くというのも。
きっと楽しいですわ」
と、即座に賛成するカルラ。
……というか誘われてるのは私なのだが?
「おじ様…………」
カミュが、不安そうな目で見ている。
…あてのない旅。
さすがにそれには、ついてこれないだろう。
「総大将」
クロウが、真剣な目で見ている。
…返答によっては、一戦も辞さない、という顔だ。
全力で、引止めにくるだろう。
「…………」
事の成り行きを、黙って見つめているのはトウカだ。
……彼女は私が行くところならば、どこにでもついてくる覚悟なのだ……
「兄者!!頼む!!」
オボロは、頭を下げる。
そして、私は……
…………私は…………
「……………私は」
「だめです」
ひくぅっっ!!
オボロの顔が引きつった。
……クロウも、別の理由で引きつっている。
カミュは…驚いてるな。
トウカが、『いつの間に!』といってるところを見ると、
彼女も気づかなかったのだろう。
カルラは……カルラだけは読めないな。わかってたのか?
報せないとは人が悪い。
…………さっきの声の人物は、というと…………
「ベナウィ…」
「夜分遅くに失礼します聖上」
と、さすがに礼儀正しい。
だがお前、皇宮に連行された時といい、
最近私を驚かす妙な遊びを覚えつつないか?
「くっ……ベナウィ!!」
オボロが声を荒げるが、
「だめです」
……にべもない。
「せっかく後継者問題が先送りになったというのに
蒸し返すつもりですか、あなたは」
「ぐっ……し、しかし!!」
食い下がるオボロに、ふぅ、とため息をつくと、
「でしたらこうなさい」
とベナウィがいう。
「今ではなく、皇女がもっと大きくなられてから旅に出るのです。
……そう、今のカミュ皇女ぐらいに」
と、カミュを視線で指す。
「そうすれば、皇女が聖上の顔も知らずに育つ、ということもないでしょう。
なにより、その年になればたいていの子は外に興味を持つはずです。
それまで、お待ちなさい。」
「……………………」
オボロには、返す言葉はもうなかった。
正論で、あるからだ。
「聖上。よろしいですか」
「……………オボロ」
訊ねるベナウィに促され、私は口を開いた。
「私は…………私は旅に出ることはできない」
「兄者…………」
「だから……今は、国に残ってはくれないか?」
オボロは、少し、何かを思い…そして。
「ずるいな……」
「…………」
「ずるいぞ兄者。そういわれたら、断れないじゃないか……」
「さて、この問題はこれで終わりとします。
改めまして…………」
………きた。
できるならうやむやになったまま、
戻っていってほしかったが……
「………ベナウィ。
聞くまでもないと思うが一応聞かせてくれ。
………用件は?」
「こんな時間になってもまだ御寝所の騒ぎが収まらぬようなので」
「………………」
「クロウ」
「う、ういっす!!」
「あなたは確か明日兵たちの訓練で遠征するはずではなかったのですか?
それもあさはやく。」
「う……」
「オボロ、あなたもそれに付き合うはずでは」
「ぐ……」
……冷たい…
冷たいぞあの視線は…
殺気さえこもっている……
「聖上」
「あ……ああ」
「明日のおつとめは、きちんとこなしていただけるのでしょうね?」
「…………」
ぐうの音も出ない。
「全く、あなた達は自分が国の中心人物だということをもっとですね…」
ああ!始まってしまった!!
やばい!!このままだと朝まで説教しかねん!!
いかん、誰か止めてくれ!!
トウカ!!
「え、あ……すぴ〜」
寝た振りするな!!
カルラ!!
……ああっ!なんだそのご愁傷様、という目は!!
だぁっ誰でもいい!!ベナウィを止めろぉっ!!
「……ハクオロ様……あ、あら?」
「あ、お姉様……」
「ウルト…」
と、全員の意識がそっちに向かう。
当然、ベナウィも。
…………助かった。
「お邪魔…でしたでしょうか?」
「「「いや!そんな事はない!」」」
「そ、そうですか?でしたら、よいのですけれど…」
少々戸惑い気味のウルト。
それは、そうだろう。
こんな時間にこの人数。
しかもクロウとオボロにいたっては正座までさせられている。
……これがこの国の中心か……
と、余計なことを考えていると、カルラが口を開いた。
「…ウルト、あなたあるじ様の子を看ていたのではなくって?」
「ええ、夜泣きがひどかったけれど、先ほど、ちょうど寝付いたところです。
後は、ドリィさんとグラァさんに代わっていただきました」
(あんまり愛情を傾けられると困るからな。
適当なところで交代するようあいつらに言っといたんだ)
オボロが耳打ちしてくる。
なるほど。
「…………それで?」
「?」
再び問いかけるカルラと
何を聞かれているのかわからないウルト。
……カルラ?
「……『こんな時間』にあるじ様の『寝所』に何の御用でしたの?」
言葉に何か剣呑な響きがあるのだが…
「え…それは…月がきれいでしたから…」
「……………………」
「……………………」
「……あら、あなたも、あるじ様を晩酌に誘いに来たんですのね。」
「え、ええ。」
「そう…」
と、カルラが目を細める。
何かを確信した表情……
「でも……それは残念ですわね。
もうそろそろお開きになるところでしたから……」
「え、ええ。そのようですね……」
……………
……………
「……なんだか、含むとこが随分――――」
ガンっっ!!
「っ!!何すんですかい、大将!!」
何かを言いかけたクロウを無言で殴るベナウィ。
きっちり非難まで無視している。
「聖上。それでは、私たちはこれで失礼いたします。」
「あ…ああ。」
なにやら微妙な具合で微笑み合うカルラとウルトをよそに、
ベナウィはオボロとクロウを連れて部屋を出て行った……
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