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「…………従兄弟?」
「ええ、そうです。……意外でしたか?」
と涼しげにベナウィが言う。
いつもの山のような書簡がつまれた書斎で、
仕事の合間に、雑談をしていたときにでた話だった。
「いや、しかし……あいつはそんなこと一言も…」
「……………………」
ベナウィはエルルゥの入れてくれた茶をすすり、
「…知らないんですよ。その事を。
……まだ小さかったですからね。
それに、会ったのも数日でしたし」
と、懐かしげにいう。
「ほう……会った事があったのか」
「ええ、お互い、まだ子供の頃です。
私も、元服をむかえていない位の昔です。」
語るベナウィはどこか楽しそうだ。
……この男が昔語りをするなど珍しい。
「……聞いてみたいな」
純粋に、そう思う。
「ふふっ……面白おかしくは話せませんが、
それでよろしいのでしたらお聞かせします。」
「ああ、ぜひ聞かせてくれ。」
「そうですね……あれは…
そう。まだオボロの両親が皇宮に勤めていた頃の話です……」
『崖の花』
〜出会い〜
「…………?」
その子を見たのは、とある崖の下でした。
何かをじっと見上げて、そこに立ち尽くしていたんです。
「……………………」
……しばらく眺めていても、一向に動く気配がありません。
…当時の私は、好奇心旺盛な子供でしたから、
その子が何を見ているのか気になって、気になって……
だから、声をかけたんです。
「ねぇ、何を見てるんだい?」
………………
聖上、そこで笑わないで下さい。
当時はこういう喋り方だったんです。
「……………………」
……けれど、話しかけても返事はありませんでした。
ただただ、上を見るばかり。
視線をたどっても…今の自分の位置からは何を見ているのか分かりません。
「ねぇ、何を見てるの?」
何度か聞いてみても、返答はなく。
「……………………」
やがて、その子はちらり、とこちらを見ると、
私に背を向けて、歩いていってしまいました。
「………えっと……」
少し戸惑った後。
私はその子の立っていた場所に立ち、
そして、何を見ていたのかを知りました。
「……花……」
崖の上に一輪、花が咲いていたんです。
「……花が、好きな子だったのかな?」
なんとなく、違うような気もしましたが、
それ以上のことが分かるはずもなく。
その日はそれで、おしまいだったんです。
それが、初めての出会い。
……再会は、すぐでした。
次の日も、その次の日も。
その子はその崖の下にいました。
幾度か話しかけたんですが……
やはり無視されて。
そしてさらに次の日。
「……!あの子は……!!」
いつもの様にその崖の方をのぞいてみると、
やはりその子はいたんです。
でも。
その日は崖の下ではなく、
その子の姿は崖の途中にあったんです。
「いけないっ!!」
その子が必死に登っているその崖は、
ところどころにもろい地層があって……
私も一度、落ちたことがあるので知っていたんですが、
その子は丁度、そこに足をかけるところでした。
「……っ!!」
私は、走りました。
…私が落ちたときは、幸運にも怪我がありませんでしたが、
今度もそうとは限りません。
私が話しかけてもことごとく無視してくれた子ですから、
ここから何かを言っても聞きはしないでしょう。
果たして、どうやって説得するかを考えながら走っている内に、
その子は案の定、足を滑らせたんです。
「!!!」
……無我夢中でした。
とにかく走って、走って。
それでも間に合わないから前に跳んで、腕を差し出して。
「………ぐぅっっ!!」
気が付いたら、その子の体が、私の上にありました。
「……………………」
ほっとした反面、
何が起こったかも理解できずに
キョロキョロしてるその子を見てると、
私も腹が立ってしまいまして。
……怒鳴ったんです。
「何を考えてるんだよっ!!
花なんかとるためにあんな危ないまねして!!」
……以前自分が同じ様なまねしたのも忘れて、そんな風に。
その子は怒鳴られた後、少し、ぼうっとしていて。
その後、ばつが悪そうに視線をそらして、言いました。
「……いもうとに……ユズハにあげるんだ」
「………ユズハ?」
なんだか聞いたことのある名前だな、
なんて考えてる私をよそに、その子は続けます。
「…びょうきを、なおすんだ。あのはなで……」
「……?………」
はじめは、何を言ってるんだろう、と思いました。
私は、そんなに薬草に詳しくはありませんでしたが、
それでもあの花がただの花だということは知っていましたから。
でも、ほんの少しして。
私も思い出したんです。
万病に効く、崖の花の話。
それは、幼子に聞かせる、子守唄のような……
淡い……淡いおとぎばなし……
……聞けば、その子の妹は、生まれつき身体が弱く、
ずっと寝たきりなのだそうで。
だから自分が何とかしたくて……
いつか聞いた崖の花を、求めたのだと。
……なんて、優しい子だろう。
……なんて、純粋な子だろう。
……私は、その子が好きになりました。
その後もしばらくは、その子は私を無視していましたが…
何度も話しかけるうちに次第に打ち解けていき…
それから、私たちは色んな話しをして。
時には、聞きかじりの剣術の真似事などをして。
二人で、遊んでいました。
……実は妹さんの見舞いに来るようにも誘われていたんですが…
結局。
それは果たせぬままで。
なぜなら。
しばらくして彼の家族は……
……皇宮から追われる身となったからです。
その時、初めて。
私はその彼――オボロが、自分の従兄弟であると、
知ることになりました。
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