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……二人の男が、対峙していた。

共に無手で、構えを取り、
相手の隙をうかがいながら。


一人は巨漢。
服を破らんと言わんばかりに
鍛え上げられた男。


も一方の男も、やはり鍛えられた体つきをしていた。
しかし、その方向性が異なる。
より早く。
そう動くために成された身体。
速さを失わぬ為、しぼられた肉体は痩せぎすの感さえある。


双方ともが、腕に覚えのある猛者であるようだった。





「………っ」
「…………!!」


痩せぎすの男が動いた。
一瞬の隙に間合いをつめ、すばやく拳打を繰り出す。


「チィッ!!」


巨漢の男がかろうじてそれをかわし、
後退する。


「フゥッ!!」

だが連撃は止まない。
引けば引いた分だけ追い詰め、
間合いを取ることを許さない。


「…………ぐぅっ!!」
「!」

巨漢の男の守りが崩れた。
鳩尾ががら空きになる。


「……オァァアアッ!!」


必殺のヒジ。



……しかし。



「…………っ!!」
「もらったッ!!」


ズドン!!

「っ……カッ!ハッ…!!」



掛け声と共に宙を舞った痩せぎすの男は、
そのまま地面に叩きつけられ、苦しげに息を吐く。



「そこまで!!勝負ありです!!」



二人から少し離れた場所にいた男が、そう、宣言した……









『妖刀』
〜敗北〜









「誘い込まれましたね。オボロ」


開口一番そう言ったのはベナウィだ。


ここは皇城の広場。

ベナウィ、オボロ、クロウの三人は
先ほどまで、無手での技の鍛錬を行なっていた。


その仕上げとしての試合を、オボロとクロウでやる事となり。

今、それが終わったところである。


「追い込んだまでは良かったですが、
 どうも貴方はこの手の誘いに弱いようですね。
 いいですか?隙というものは……」

「大将、大将」


オボロに戦い方を説くベナウィに、
地面に座り込んだクロウが横槍を入れる。


「……なんですか?クロウ」

「オボロの奴、聞こえてませんぜ。」

「……………………」


見れば、完全にのびているオボロがいた。


「……仕方ありませんね。
 とりあえず、これで終了とします。」

((……ほっ……))

と、内心息をつく『二人』。

そんな二人に背を向け歩き出すベナウィ。


と、顔だけ振り返る。


「…後で評を聞かせますので、
 私の部屋に来るように」

((げ……))


「特に……
 寝たふりをして人を騙そうとするあたりの話は
 長くなりますから、覚悟して置いてください。」

「ぐあ……」

「あっちゃあ……」


手のひらで目元を押さえるオボロと、
その場にひっくり返るクロウ。

ベナウィはもうそれ以上は振り返らずに、その場を去っていった。

















「……まいったな」

「余計な事しちまったか……」


ベナウィが行った後。

そんな事を呟く二人がいた。


「……そいつぁともかく。
 これで、五十三戦二十九勝二十四敗だ。
 また差が開いちまったな」

「ぬかせ。ここのところの四連敗が
 やっと止まったとこだろうに」


からかうクロウと苦々しく返すオボロ。


「へっ、そんな事じゃあ大将に勝とう何ざ、
 まだまだ無理だな」

「――――ちっ」

それは、自分でも思っていた事だけに、
オボロは舌打ちするしかなかった。



「……おい、でかいの」

「なんだ痩せぎす」


「お前は……あるのか?」

「ああ?」


「ベナウィに、勝ったことだ」



そう言われて、少し間が空いた。

そして。


「…………ねぇな」


そう呟く。


「…初めて会った時から、一度も、ねぇ」


そう、あん時から…





負けっぱなしだ……

































あれは、この国が、
まだケナシコウルペって名だった頃の話になる。




当時、俺は……賊だった。


…………ん?
意外か?


おめぇだって、そうだったろうが。

……義賊だぁ?


それを言うんなら俺だって義賊だ。

襲うのは国の上にいる奴ら。

生意気に、反抗勢力名乗ってた時代さ。



……もっとも、
規模は小さい、人材もいねぇ、やることはせいぜい闇討ち程度。

こそこそと兵士長あたりを斬る位しかしなかったからな。
すぐに潰れちまったんだが…


まぁ、そこら辺の話だ。








俺はな、孤児だった。


……珍しくもねぇけどな。


ふた親は、重税に次ぐ重税で、
押しつぶされて、病気で逝った。

…表立って、皇に文句言ってた親だったから、
俺を引き取ろうなんて奴もいねぇ。

それでも、見捨てるのも不憫だったんだろうな。
なんとか、生きてたのさ。


だが、まぁ。
つまはじきにされるのは仕方ねぇ事だったんだろうよ。




だからかどうかは知らねぇが、
俺は常にあることを思ってた。



『強くならなくちゃいけねぇ』ってな。



だから、俺は強くなった。

身体を鍛え、刀の使い方や、馬の乗り方も覚えた。


……『誰から習ったか』って?


丁度、な。
旅の途中の、エヴェンクルガからだ。


主になるべき人間を探して旅してたらしいが、
この国は大外れだったらしい。

俺に武のまねごとを仕込んだのは……
……何か、思うところあったんだろうよ。

今となっちゃ、それが何なのかはわからねぇが、な。







力をつけた俺は、いつの間にか同じ様な孤児たちの頭になってた。


それで始めたのが、闇討ちさ。


みんな何かしら国に恨み持ってる連中ばかりだったから、
自然とそうなったんだ。

自惚れじゃねぇが……俺がいたからな。

そこいらの奴には負けなかったし、
なにより、暴れたかったんだろ。

不平不満、溜め込んでたわけだしな。





そんな事を続けて……
俺達はついに大物に手を出した。




ケナシコウルペの、軍の長。
若くして侍大将になった凄腕の漢。



『妖刀』ベナウィさ。





ん?……ああ。
『妖刀』ってのは、俺達がつけた字名だ。


『腕も頭もきれる奴だが、
 斬る相手を間違えてる』ってな。


……妖刀だろ?




で、だ。

そいつが夜一人で出歩くのを待って、奇襲をかけた。



………つもりだった。


……気が付くと、囲まれたのは俺達で……


…何のことはない。
罠だったんだ。


『妖刀』は自分を囮にして俺達を誘い出しやがったんだ。




……戦ったぜ?
その『妖刀』と。


そいつはその必要もないのに、俺の一騎打ちの申し出を受けてな。


……強かった。

俺の俄仕込みの『力』なんざ、歯がたちやしなかった。

刀は折られ、槍突きつけられて…


もともとごろつきの集団だ。
俺が負けたら他の連中は蜘蛛の子を散らすように逃げてった。


…囲まれてたのに逃げれたのか?

……そういやそうだな……

たぶん、退路を残しててくれたんじゃねぇか?

……大将なら、やりそうだろ?
要が俺って事ぐらいは、知ってたんだろうよ。




俺は覚悟を決めた。


『武士の価値は、死ぬときにこそ計られる』


…俺に、『力』を仕込んだ奴の言葉だった。

何のつもりか武士の心得まで仕込んでいきやがって…

俺も、それを気に入ってたんだけどな。


だから、その場に胡坐をかいて、相手をまっすぐ見据え、


「斬れ」


そう言った。



……どっかで見たような光景だ?

まぁ、な。
総大将の時は…俺の役目も終わったって気だったしな…

こんときも、似たような心境さ。
なんだかんだ言っても、国に痛手を与えたのは確かだったし、
『こいつにやられるなら、いいか』ってな。



ところが、だ。
俺は斬られなかった。


…ますますどっかで見た光景だぁ?

……黙って聞いてろ。




そして、俺は捕まって…城の牢に入れられた。


よっぽど自刃しようかとも思ったが…
それも余計に惨めな気がしてな。


そして、ある日。

















「でなさい」


「ああ?」

「……ついてきなさい」


おれは『妖刀』に連れ出された。



…馬鹿じゃねぇかって思ったぜ。


供の一人もつけちゃいねぇんだ。
たった一人で、俺に背を向けていた。

……俺が逃げることを考えてねぇのか、ってな。




……俺は、結局逃げなかった。


一応、望まなかったとはいえ
命を助けられてたわけだし…

こいつがわざわざ一人でやってきて、
どこに俺を連れて行くのか、
興味があったからだ。


そして、ある一軒の家の前で止まって…

中に入る時に、言いやがったんだ……




















「貴方が殺した、兵士長の、家族です」

……………………………




















その後のことは……いいたくねぇ……





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