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それは、誰かとの再会の話。
それは、いくつもの思い出の話。
それは、いくつもの死の物語。
それは、命に伝えゆく物語……
『ヤマユラの子』
〜鎮魂〜
かつてヤマユラと呼ばれた集落があった。
通称を辺境の村とするその集落は険しい山脈の内にあり、
国境に最も近い位置に存在していた。
……そう、存在“していた”。
「……………………」
「………お姉ちゃん」
隣にいたアルルゥが、ギュッと手を握ってくる。
私はそれを、握り返した。
大丈夫だから……
そう言ったつもりだったけど。
果たして言葉にできていたかはわからない。
「……………………」
「お姉ちゃん…いたい」
「っ…ごめん、アルルゥ…」
知らない内に力が入っていたのだろう。
私は慌てて手をはなした。
……ぬくもりを失った手が、やけに寒くて……
気が付けば……私はアルルゥを抱きしめていた。
「……お姉ちゃん?」
「……お願い…アルルゥ…
今は…こうさせて…」
私の目の前には、一つの墓石がある。
かつてここにいた人達の……私の家族の、墓石だ。
……皆が眠っているのは、本当はここではない。
森の恵みを受ける民は、その命を森に返す……
それが、この辺境の地の慣習。
みんなも、みんなよりもっと前に旅立ったおばあちゃんも、
近くの森に、本当のお墓がある。
これは……このお墓は、
…そう、生きている人たちのためのお墓。
……おばあちゃんが言っていたことがある。
お墓には二つあって、魂を鎮めるものと、心を癒すもの。
だからこれは、私達の心を癒すためのお墓。
…だから、お参りは、ここのお墓にする。
……たくさん、たくさん色んなことがあって…
なかなか、訪れることが少なかったけど……
これからは、毎朝、これるね。
…これからも……見守っていて……ね……。
……私は、戻ってきていた。
この、懐かしい、ヤマユラの集落に。
……なんとなく…だけれど。
あの人の帰ってくる場所が、ここだと思ったから。
私の、大切な場所だから。
みんなが、生きた場所だから。
……だから私は、ここにいる。
「うっうっ……ぐずっ……うう……」
「アルルゥ……」
遠い、昔の話になる。
私は泣き続けるアルルゥを見ていた。
ずっと……ずっと、見ていた。
私は――私も、一緒に泣きたくて、泣きたくて。
私自身、そんな状態だったから、アルルゥにかける言葉もなくて。
そうしていると、おばあちゃんが傍に来ていた。
「……また、ここに来ていたんだね……」
「…………」
私たちは、応えない。
おばあちゃんはそんな私たちを責める訳でなく、
そこに、たたずむ。
優しく、優しく。
そしてどこか、哀しく。
私たちと一緒に、そのお墓の前にたたずむ。
「……お父さん……」
私はそのお墓に向かって、そう呟いた。
「うっうっ……うわああああああああっ!!」
その一言が、また悲しみを呼び起こしたのだろう。
アルルゥが、大声で、泣き始める。
大粒の、涙で…
目の前が、かすむぐらい……
…………あれ……?
なんでだろう。
泣いているのは、この子なのに。
……なんで、わたしの目の前が、
……かすむんだろう……
「…………アルルゥ、エルルゥ……」
おばあちゃんが、私とアルルゥを静かに抱きしめた。
おばあちゃんは暖かくて……安心したのを、おぼえてる。
「もう、泣くのはおやめ……」
おばあちゃんが、言う。
「……泣くのはおやめ……」
「ひっぐ、えぐっ……ううっぐずっ」
でも、なきやまない。
……なきやめない。
「……アルルゥ、エルルゥ。お墓は何のためにあるんだと思う?」
「…………おと〜さん……しんじゃたから……」
おばあちゃんは、少し、力強く、抱きしめた。
「お父さんはね、寝てるんだよ。」
「………ねてる……?」
「そうさ、今まで一生懸命、生きてきたからね。
これからゆっくり、ねむるんだよ。」
「…………また……おきる?
おきて、アルルゥのこと、なでてくれる……?」
おばあちゃんは、アルルゥの目を、優しく見つめて。
でも、ゆっくりと、首を振った。
「……けれどね、アルルゥ。
お父さんは、夢の中で、アルルゥたちの事を見ているんだ」
「……………………」
「だから、アルルゥ。
もう、泣くのはおやめ。
お父さんが、ゆっくり眠れるように」
「……………………」
アルルゥは、何も言わなかった。
それは、おばあちゃんの言葉をかみしめている様でもあり、
泣くのを、必死に我慢しているようでもあった。
……おばあちゃんは、ここにくる途中で摘んできたんだろう。
お花を一輪、お墓に供える。
「…………………っ」
アルルゥが、駆け出した。
「っ!アルルゥっ!!」
「エルルゥ」
追いかけようとした私を、おばあちゃんが、とめる。
「……いまは、そっとしておいておあげ」
「…………でもっ」
「エルルゥ」
おばあちゃんが私を見つめる。
だから私は、それ以上何も、言えなかった。
「………………」
「……なんて顔をしてるんだい……」
私の頬を、おばあちゃんの手が、拭う。
……そっか…私、泣いてたんだ……
「いいかい、エルルゥ。
お墓ってのはね、残された人のために、あるんだよ」
「………………?」
言ってることが、わからない。
「残された人間が、もう一度、笑えるように。
だからね、エルルゥ。
お前は、微笑んでおあげ。
自分は大丈夫って、微笑んでおあげ」
「……………………」
できないよ……おばあちゃん……
「……そうだね。
いまは、無理かもしれないね。
……でも、エルルゥ。
いつかもう一度笑うことができたら、
その時は、微笑んで、言ってあげるんだよ。
…………お疲れ様、ってね。」
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