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「アルルゥ。手伝って」
「ん」
帰ってきてから、少しばかりの時が流れた。
村を一から復興する、なんて、息巻いていたけれど、
私たちだけでできるはずもなく。
結局は、クロウさん達の手を借りることになった。
家や倉を建て直したり、畑の柵を直したり。
…クロウさんの部下の人たちが、善意で来てくれたのが、
本当に嬉しかった。
……そういえば、ユズハちゃんの診察に行ったとき、
オボロさんが手伝えない事をすごく気にしていた。
ユズハちゃんがそれどころじゃない状態だから、
別にいいって言ったのだけれど。
「ムックル、こっち」
「ヴぉ」
ムックルが、アルルゥに言われて鋤を引いている。
こういう作業は、あの子の担当だ。
わたしは、森に食べ物をとりに行く。
…モロロがとれるようになるまで、まだまだ、かかりそうだった。
『ヤマユラの子』
〜交錯〜
「テオロさん!大丈夫ですか?」
「ん?……おう、エルルゥか」
テオロさんが振り返り、にかっと笑う。
手には大工道具。
森に薬草を取りに行く途中、
木材を相手に四苦八苦している姿を見かけて、
私は声をかけていた。
…これも、ずっと前の話。
……大きな、地震があった。
私たちが森に出かけ、薬の材料を採っていた時だ。
その揺れは当然集落にも来ていて、
テオロさんの家“だけ”が、見事に倒れたのだという。
「いや、しかし参ったぜ。
何でうちだけ倒れるかね。」
「あはは……」
「自業自得ダニ」
と、後ろから声。
「あ、ヤーさん……ウーさん、ターさんも」
「おはようダニ、エルルゥ」
「……………よう」
「あ、お、おはよう」
ヤァプさんたち三人だ。
「……じいさん、自業自得って」
「そのままの意味ダニ。
さんざん、その事でソポクにもいじめられているダニ?」
「……それをいわねぇでくれ。」
相当、きつく言われているんだろう。
がっくりと、うなだれる。
……そんな話をよそに、
ウゥハムタムさんが、木材を担ぎ始めていた。
「……………手伝う」
一言だけ、喋る。
「え?……あ、ぼ、僕も手伝うよ。オヤジさん」
「そうダニ。皆でやれば、早いダニ。」
タァナクンさんも、ヤァプさんも。
みんなが、テオロさんを手伝いだす。
「お…ありがてぇ、ありがてぇが……
じいさんは、無理すんなよ」
「まだまだ現役ダニ!!」
そんな言葉に、皆で笑う。
みんなで、わらってた。
……この村で。
……村に住む、人たちが増えた。
案内してきた兵士さんの話だと、近くの国で戦があり、
戦火を逃れて、トゥスクルにやってきたそうだ。
……ベナウィさんの指示で、ヤマユラに来ることになったという。
幾人かの兵士さん達もここに常駐するようだ。
これも、ベナウィさんの指示らしい。
それにしても……
「また…戦。」
シケリペチムが崩れた後。
その周辺の国同士の間では、いざこざが絶えなかった。
……シケリペチムという強国の恐怖がなくなった、その反動らしい。
それでも、クンネカムンのあの侵攻によって疲弊していたため、
しばらくは戦などは起こらなかったのだけれど……
それも、最近ではよくこんな話を聞くようになった。
もしかしたら…兵士さん達が来てくれたのは、
ベナウィさん達が心配してくれたからなのかもしれない。
「あの……?」
「はわっ!?……」
いけない!考え事に夢中になっちゃった!!
「あ、なんでもないです!なんでもないです!
それで、ですね。ここの村では……」
……しっかりしなきゃ。
みんな辺境での暮らしは初めてなんだから。
わたしが、しっかりしないと。
「……で、エルルゥ。実際のとこ、どうなんだい?」
「え……?」
今は懐かしい、思い出の中の声。
そんな事を訊いてきたのは、ソポク姉さんだ。
……ハクオロさんに言われて、
畑にまくものを粉状にすりつぶしていた時のこと。
何のことを訊かれているのかわからなくて、
私はキョトン、としてしまっていた。
「ハクオロのことだよ。
結構、気にしてるんじゃないかい?」
「え…あぅ…そ、その、わたしっ、そんなっ」
いいながら、赤くなるのがわかる。
……やだ…わたし、いつの間に…こんなに…
「……こりゃ脈ありどころの話じゃないみたいだねぇ。
で、どうするんだい」
「え、ど、どうって、なんですか?」
「もう直接、言っちまうとかさ」
「はわっ!そ、そんなっ!!」
「……こら、だめだよ、エルルゥ。
そんなに遠慮してちゃ」
で、でもっ!!
「男なんてね、ほっといたら、
勝手にどっか行っちまうんだから。
ちゃあんと、捕まえとかないと。」
「……でも…わたし……」
「……………………」
「……………………」
「………ほぅら!!しっかりしな!
あんたは、結構いい女なんだからさ!!」
「わたし、そんな!」
「ホントだよ!
しゃんとしてれば、どんな男でもいちころさ」
「…………いちころ」
「そう、ハクオロだってね」
「そ、ソポク姉さん!からかわないで!!」
「アッハハハッ……!!」
………………
「エルルゥ様、おはようございます」
「あ、エルルゥおねぇちゃん!おはよう!!
アルルゥちゃんは?」
「おや、村長。
よいお天気ですな。」
「おはようございます、みなさん。
……キィル、おはよう。アルルゥはお出かけしてるの」
朝が来る。
村のみんなに挨拶をしながら、薬草を取りに森に行く。
…今日はアルルゥは連れていない。
ここ最近は、ずっと皇宮に通い詰めだ。
…ユズハちゃんの子供が、生まれてからは。
…………本当に、良かったと思う。
一時は、危険な状態だったけど…それも今は体調も良好な様で。
まだまだ予断を許さない時だけれど、ひとまずは安心だ。
本当なら、私はユズハちゃんについていなくちゃいけないのだけれど…
どうしても自分の手で見つけなくてはいけない薬草があって、
昨日からヤマユラに帰ってきていた。
……そして、その日。
私は、会えるはずのない人に、再会した。
「……エルルゥ!!エルルゥじゃないかい!?」
「…え…?
…………あ……セ…
セ…アラさ…ん!?」
うそだ………
この人が………
この人がいるはず……!!
「ああ、やっぱりエルルゥだよ。
この村で、また会えるなんてねぇ……」
だって!
だってセアラさんは……
“あの時”……ヤマユラにいたのに!!
「…………そうだったんですか…ソポク姉さんが…」
……それから、私はセアラさんに、話を聞いた。
あの時。
クッチャ・ケッチャの兵が攻めてきたとき。
テオロさんが皇宮につく時間を稼ぐために、みんな、戦ったそうだった。
ウーさんもターさんもヤーさんも。
昔から、この集落にいるみんなも、
他の集落から、流れてきたみんなも。
……でも、そんな中で。
ソポク姉さんは、とっさに、
幾人かの人に、逃げるように言ったのだ。
それは。
小さな子供をつれた家族とか、
身重になっている人。
セアラさんは、そんな中の、一人だったらしい。
「…………気が付いたら、森の中でね。
周りには、誰もいなかった。
自分がどこにいるかもわからなくなって、
もう駄目かって思ったよ」
でも、そんな時。
セアラさんは、助けられた。
国の束縛から逃れて、
森の深くに隠れ住んでる人たちに。
「助かった、って思ったら、陣痛が始まってね」
自分が生きていることを報せようにも、動けなかったのだそうだ。
子供が生まれたら、それからはその子を育てるので手一杯で。
そして…最近になって。
「聞けば、ヤマユラの集落が、復興したって言うじゃないか。
……もしかしたら、と思ってね」
少しは大きくなった子供をつれて、帰ってきたのだという。
「……じゃあ、その子が…?」
「……そう、この子が、その時の子さ」
腕の中に抱いている子供。
寝ているらしくて、すやすやと、
気持ちよさそうに寝息をたてている。
「名前はね。ソポロ」
「それって……!」
「ふふ、女の子みたいな名前になっちゃったけど、男の子だよ」
言って、笑う。
私も、微笑んだ。
そして、嬉しくて。
……涙が、あふれた。
ハクオロさん、ハクオロさん。
聞いてください、ハクオロさん。
生き残っていた人がいたんです。
無事だった人が、いたんです。
みんなが、つないだ命の糸が。
ずっと残ってくれてたんです。
あの子は、きっとヤマユラの子。
私たちみんなの、子供です。
ねえ、ハクオロさん。
見に来てください、ハクオロさん。
この、ヤマユラの、集落へ。
「ハクオロさん……私はここにいます」
みんなの思い出が、ある場所だから。
「アルルゥと一緒に……ここにいます」
みんなの記憶が、ある場所だから。
「ずっと……ずっと……ここにいます」
あなたが帰って、来る場所だから。
「ここで……あなたを……」
……………………
「………………」
……………………え?…………
果物かごが、トサリ、と落ちた。
「…………そんなことが、あったんですよ」
……私は、今。
床についているハクオロさんの傍らにいる。
ハクオロさんは眠っていて、これは私の、ひとり言。
今日は一日、看病していたから、
長いひとり言になってしまったけれど。
「……ソポロちゃん、元気かな?」
ふ、と。
またヤマユラの集落に、思いをはせる。
私は今、笑えてる。
色んな悲しいことがあったけど。
楽しいことや、嬉しいことがあったから。
だから。
だから、ね。
おばあちゃん。
テオロさん。
ヤーさん、ウーさん、ターさん。
ソポク姉さん。
みんな。
「……お疲れ様。」
言の葉は……精一杯の微笑とともに。
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