[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」




「ふぅ……一時はどうなることかと思ったな…」


書斎から逃げてきた私は、廊下を歩いていた。

盛られた薬の効果は、もうだいぶ薄れてきている。


…とはいえ、精力剤の効果だけはそうもいかないらしい。

やたらと元気になっているそれを下腹部に感じながら、
おさまるまで時間がかかりそうだ、と思った。


こういうときはさっさと寝てしまうのが一番なんだが…


精力剤のせいだろう。
すっかり目がさえてしまっている。


「……晩酌でもするか……」


しかし、一人で飲むのも味気ないな……


…と、足を止めた。

じゃあ、話し相手は誰にする?


女性陣は駄目だ。

今の状態で酒が入ったら何をするかわからん。


第一候補のクロウは、遠出していて今日はいない。


ベナウィは…たまにはいいかも知れんが、
今からじゃ説教喰らいそうだから駄目。


ドリィとグラァは……いろいろと危険だ。


と、なると……

「…………オボロに付き合わせるか。」


それしかなかろう。

酒はやめてるという話だが……

オボロには悪いが、私が飲んでる横で、
話だけでも付き合ってもらうことにしよう。


「よし、酒を持って、あいつの部屋に行くか」









『夜話』
〜月見〜










「オボロ、ちょっと酒に付き合って―――」


と、オボロの部屋に足を踏み入れた。


「ん?兄者?」

「兄者様?」


そこには、オボロと…グラァがいた。


グラァは、夜着としての衣一枚の姿。

そしてオボロは上半身裸。



「…………」

「…………」

「…………」



えーっと……



ここは寝室。

時間は夜。

部屋の中には半裸のオボロと夜着のグラァ。


……………………





とりあえず、クルッと体を反転して。


「すまん!邪魔したな。じゃ、私はこれで……」

「まて、兄者!今、何を考えた!!何を!!」


オボロが引止めにかかる。


何って…………そりゃ、なぁ。


「ああ、いや。
 実際、そういう趣味ってのは珍しくないと言う話だしな。
 グラァなら、わからんでもないし。
 ……まぁ、ほどほどにな。」

「だからなんの話だっっっ!!」


「…違うのか?」

「……何を勘違いしてるか知らないが……
 グラァには背中を診てもらってただけだ」

と、背中を親指で指し示す。


「背中?」

「……昼間、クロウとの試合で打ちつけちまってな。
 夜になってから痛み出すもんだから、な。」


ああ、そういうことか。

私はてっきり……なあ。


「なんだ、違うのか」

「なんだか知らんが違う!!」

「…………違ったんですか………」


………?
今、なんと?


「…………?」

「…………グラァ?」

「………………」




……………


…聞かなかったことにしよう。


























…私は、オボロの部屋を後にした。


……結局、酒はあきらめた。

結構ひどい痛みらしく、のんべんだらりと
世間話に付き合う状態じゃなかったからだ。


それに、もう一つ。

グラァがいる以上、あそこはやばかろう。


なにしろ夜着姿で髪をおろしたグラァは、普段以上に男に見えない。

そのうえ、その事を言うと、


『やっぱり、確かめますか?』


などと頬を赤らめて言うもんだから、
さすがにそれ以上そこにいる気にはならなかった。


……まぁ、その毒気に当てられたのか、
おさまるものはおさまっていたから目的は果たした、と言える。





「………月がきれいな夜だな。」


いよいよ寝るか、と自分の寝所に戻る途中。

ふと空に輝く月に目を奪われ、視線を外へ向ける。


「ええ、そうですね」

「?」


ひとり言に返事がかえってきた。


「………ウ、ウルト?」

「はい……どうかされましたか?」


と、振り返るとそれはウルト。


……いや、どうしたと言われても……


さっきまで書斎を
人外魔境にしていた当人が現れれば、そりゃ驚く。


「……いや、なんでもないさ。
 …本当に、きれいな月だ。」

「ええ……そうですね。」


……先ほどの書斎での様子が嘘のように
穏やかな雰囲気でいるウルト。


二人で空を見上げ、何を話すでもなく、
ただ、時を過ごす。




「…………」

「…………」


沈黙が、苦にならない。

こういった、落ち着いた時間を過ごせる相手がいる、
というのは、とても幸せなことなのかもしれない。



……だが、いつまでもというわけにもいかないか。



「ウル―――」

「あと…何回」


そろそろ、眠ろう。

そう言う筈だった口は開きかけで止まる。


寂しそうな表情をしたウルトが、すぐ隣に来ていた。


「あと何回、この月をハクオロ様と眺められるのでしょうか…」

「ウルト……」


「もし…もしこの身が――!」

「ウルト」


と、彼女を見つめ、目で伝える。


その先は、言ってはいけない、と。


「ハクオロ様……」

「…………」


黙って、抱き寄せる。


「あ……」


香水ではない、彼女自身の香りがした。


「ハクオロ……」


目を閉じる…


二人の顔は近づき…





そして……この展開は。





「あら、あるじ様」


「…………」



こうなる。

……さすがに予測できたぞ、これは。


「こんなところにいらしたんですのね。
 ……ひどいですわ。
 私の部屋にいらしていただけるといいましたのに……」


だから言ってない。


そう、文句を言おうと
体を離して後ろを振り返り――


「カルラ」


今まで正面だった背後から、聞こえた声で固まった。


「……なにかしら、ウルト?」


「わざとですね」

「なにが、ですの?」


「……………………」

「……………………」



ひ、ひぃぃぃぃっ!!

書斎の時の倍の瘴気がっ!!



「……カルラ、少しお話があるのですけれど」

「あら、奇遇ですわね。私も少し、話したいことがありますわ」


「…………」


「……ハクオロ様。今夜はこれで、失礼いたします」

「あるじ様。続きはまたの機会にいたしますわ。」


「あ、ああ」


私が何とかそう応えると、
二人は並んで去っていった。


……………………。


「…………城は、壊すなよ。」

つぶやく。


遠くから、爆音と言い争う声が聞こえた気がした……







「……貴女に比べて時間がないんです!!私は!!」


「…先に邪魔したのは貴女ではなくって!!?」


「だからといって同じ事をすることないでしょうっっ!!」


「大体、時間がないって、どの口が言うんですの!!?
 あなたこっちに来てから何日経ったと思って!!?
 一体いつ帰るんですのっっ!!」


「いいんですっ!!私は賢大僧正である前に一人の――――」


いや、だから聞こえる気がするだけだ。

気がするだけで、私は何にも聞こえない。


……聞こえないという事にしといてくれ。
たのむから。





戻る