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「去りし後」
「……攻撃が、やんだ?」
訝しげに、トウカが呟く。
先ほどまであれほど降り注いできていた火球は、
何故か突然ぱたりとやむと、それから一向に飛んでこない。
しばらくは気を抜かずに様子を見ていたのだが、
どうやら本当に攻撃は終わったようだった。
「……そのようですわね。」
カルラも息をつく。
まだ気は緩めるわけにはいかないが、
失った体力を取り戻すべく、壁に寄りかかった。
「一体なんだというのだ? あの像は。」
「さあ……。デグカパでない事は確かですけれど。」
「デグカパ?」
「ほら、ナ・トゥンクの水路にあった――」
……などと、どうでもいい事を話す。
多少、気が緩んでいたのだ。
あのまま続けば、その内不覚を取ったかもしれない。
火球がやんで、心底安堵していた。
「……で、どうしますの?」
「?」
「ここからでるには、
あの岩か崖を登らなければなりませんわ。」
と、周りを見渡す。
「私は、すぐにでもいけますけど?」
「……カルラ殿、できれば、
しばらく休んでからにしたいのだが……。」
よろしいですわよ、とカルラが笑う。
情けない、とトウカがまた気を落としそうになった時。
「――!トウカ。」
カルラが気付いた。
見るとそこには――
「な――お主、まだ……」
――立ち上がった、シャクコポルの男の姿があった……。
……闇の中で、男は思う。
痛まぬ傷、薄れる心。
冷たくて、寂しくて、ただ、落ちていく恐怖。
――ああ、これが、死――
ずっと望んでいたもの。
ずっと求めていたもの。
苦しき現実からの逃走……。
……望んでいた?
……求めていた?
何を?
死?
本当に?
本当に自分はそんなものを求めていたのだろうか……
…………
…………
否。
違う。
嘘だ。
ならば何故、こんなにも……
“俺は死を怖がっている――?”
――ああ、あの日なら。
全てが無くなった、あの日なら。
俺はこの死を受け入れたのだろう。
だが、俺は――生きてきた。
そして、生きたいと思った。
けれど、それに、気付かなかった――。
復讐。
心の底から、望んだ事ではない。
何か目的が欲しかった。
それだけ。
それが楽しかったのは……
その時だけ、心の虚無を忘れられたから――。
もう、必要ない。
ああ、必要が無い。
俺は、もう大丈夫だから。
死にたいなどと、思っていないから。
『死にたかろう……』
嘘だよ、ミトゥ。
ああ、それは違う。
……俺は、生きるんだ。
――さあ、腕を動かせ。
――身体を起こせ。
立ち上がり、歩いて見せろ。
…………生きるんだ。
俺は生きるんだ。
俺は生きるんだ。
俺は生きるんだ。
俺は生きるんだ。
俺は生きるんだ。
俺は生きるんだ。
俺は生きるんだ。
俺は、生きるんだ――
……それは、何と言っていいのだろう。
身体のほとんどが焼かれ、炭化し、
もはやその目は光をうつさず、
ぼろぼろになったその身体で。
――立っていた。
彼は、立ち上がっていた。
……身体が、揺れる。
倒れこみそうになる身体を、一歩足を踏み出す事で支える。
繰り返して、歩く。
一歩、また、一歩。
どこに行こうというのか。
何を、目指すというのか……
目を覆いたくなる男の様子を、
されどトウカは、目をそらさずに見ていた。
「…………」
カルラも、何も言わない。
……何も、言えない。
……男が、倒れる――。
「!――ッ!!」
トウカは、走った。
男の身体を、正面から受け止める。
耳元に聞こえる、わずかな呼吸。
息も絶え絶えに、男は必死に、言葉をつむいだ。
「……お…れは……いきる…だ……」
それだけを、呟く。
その呟きを受けて……だからトウカは。
「……名を…名乗られよ。」
「…………」
「そなたの生は、某が受け継ごう。
……名を、名乗られよ……。」
聞こえるかどうかはわからなかった。
聞こえていないかもしれなかった。
……だが、言わずには、いられなかった。
トウカの耳元で、男が口を動かす。
つ……と一筋の涙。
もはや何も見えぬ瞳から、最期の雫が零れ落ち――
――そして男は、生涯を終えた……。
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