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「生」
……一つの事件は、とりあえずの区切りを迎えた。
書斎で全ての報告を受けたハクオロは、ただ一言「そうか」とだけ呟く。
……この時、仮面がないのは不幸だったのかもしれない。
その苦悩の表情を、覆い隠すものがなかったのだから……。
……トゥスクルは、しばらく騒がしくなりそうだ。
森でオボロが見た人影。
カルラとトウカを襲った、火球をはく像。
これらの事から、事件の背景に、何者かの存在を感じられたからだ。
今は、残された像の調査が行われている。
様々な術式が組み込まれているようで、
それはウルトに、解析を頼む事になった。
……戦いが終わった後。
オボロ達はうけた傷がもとで、今は床に伏している。
エルルゥが見たところ、命に別状はないと言う話ではあったが、
しばらくは静養した方がいいらしい。
復帰は、しばらく後になりそうだった。
……カルラは、いつもどおりだ。
酒を飲み、酒菜をつまんでは、悠々自適に過ごしている。
呑む際に、トウカやハクオロを誘う事が多くなったのは、
二人の心情を察した、彼女なりの気遣いなのかもしれない。
……そして、トウカは――
「…………」
夜、広場で空を眺める。
雲ひとつ無い夜空に、満天の星空。
昔から変わらない星達のきらめきに、ふと物思いにふける。
……自分も昔から、何一つ変わっていないのではないか、と。
「……幾度繰り返しても、慣れぬ物だ……。」
ポツリ、と呟く。
あの頃……初めて人を殺めたあの頃。
奪った命に耐え切れず、母の胸で泣いた。
それでいい、と父は云う。
……人の死に、慣れてはならぬ、と。
だからこれは、喜ばしい事なのかもしれない。
だが――。
『いちいち一つ一つ背負い込んでいたら、
すぐに潰れてしまいますわよ。』
以前、カルラ殿が云った言葉。
……それも正しかろうと思う。
自分よりもずっと長く、その身を戦いの中においていた彼女だ。
感情の流し方も、自分よりもずっと上手い……。
自分は……自分はそうはなれない。
いままで自分が斬った者達。
いままで自分が看取った者達。
救えぬもの、と割り切ってはいたが、
やはり救いたい、と願う自分もいた。
失われた命はもう戻らぬが、ならば自分は彼らに対して、
何をするべきなのだろうか……。
「…………どうすれば、よいのだろうかな。」
「……とりあえず、呑んでみるのはどうだ?」
すっと差し出された杯。
隣には、いつの間にか聖上が立っていた。
「聖上……」
「酒は百薬の長……。
ならば心の病も、治せるかも知れん。」
などという。
さすがに、賛成はしかねるが……だが杯は受け取った。
杯の中の、酒を眺める。
「……どうしたらいいか、わからない、か。」
「…………」
「……私も、そうかも知れん。」
「…………」
「多くの命を奪い、その命の上に、私は立っている。
……それは、覆しようのない事実だ。」
「聖上、それは――」
「仕方のないこと、とは言えないな。
確かに私は自分の意志で、彼らの命を奪ったのだからな。」
「…………」
「……現世にいる我々は、彼らに何もできはしない。
……だからな、とりあえずは精一杯生きようと思う。
……彼らの命を糧にしたのだ。
ならば、強く生き抜くことこそが、我々のすべきことではないか?」
……生きる、という事。
あの者が、最期に望んだ事……。
「飲め、トウカ。」
聖上は言う。
「飲んで気持ちを切り替えて、杯を掲げて生を謳え。
……弔うばかりが、手向けではないさ。」
「…………」
生きるという事。
それが、答えなのだろうか……。
ふと、自分の杯を見る。
透き通った酒。
なみなみと注がれたその酒を、一息おいて一気にあおった。
きっ、と月を見上げる。
月はただ煌々と、輝き続けていた……。
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