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デリホウライの花嫁修行
初めて出合ったのは戦場。沢山の兵士達をぶっきらぼうに計20ヒットでKOなさった貴方に一目ぼれしましたわ。強く、気高く、そして、自身の国を取り戻そうとしている貴方様に一目で恋に落ちてしまったのです(まあ、その時多量の血で服や顔がびしょぬれになりましたが、貞操が守られたのですから文句はありませんわ)。
次にお会いしたのは皇宮でした。ギリヤギナの生き残った豪族の娘として、あなたにカルラゥアツゥレイの建国を祝しに言った時。あなたはまるで上の空でしたわ。でも、トゥスクルから祝辞が来た時、まるで子供のように嬉しそうでしたわ。わたくし、激しく嫉妬しましたわよ。
そして、話が進み、今回婚姻の契りを結ぶまでに至りましたけど……。
「トゥスクルへ花嫁修業ですか?」
「はい」
目の前の老人。カトゥマウさんが静かに告げた。小さい頃からデリホウライ様に仕えている重鎮中の重鎮。その人の言葉に嘘は無い。が、目の前の少女は不服そうだ。
「どうしてですの?花嫁修業ならこの国の皇宮でも出来ますでしょう?」
「ですが、まだ建国間も無く、十分な修行が出切るかどうか、疑問がございます。そして、トゥスクルはわが国と同盟関係、それに様々な人が暮らしております。人間的にも修行できますでしょう」
「ですが、相手はあの『好色皇』ですわ。もし、国王の花嫁が『つまみ食い』でもされたらどうするんですの?」
少女、ことクァリアの言葉に、カトゥマウは『何か』を思い出し、少し笑って答えた。
「大丈夫でしょう。もし、そのような事になれば、国交問題にまで発展しますし」
「ですが……」
そこまで言いかけクァリアが黙り込む。この時頭の中で打算が働いた。
(あまり駄々をこねるのは淑女のする事ではないですわね。それに、『好色皇』の弱みでも握っておけば将来的に優位に交渉が出きると言うもの……。まさか、デリホウライ様はそこまで見越して私にこのような大役を与えてくださったのですか?いいえ、そうに違いありませんわ)
遥かかなたの空の上、爽やかな笑顔を浮かべ、キラリと白い歯を浮かべるデリホウライの姿が、クァリアの目には映っていた。
「クァリア様?」
話の途中で急に遠い所を見つめたクァリアを心配そうにカトゥマウが見つめる。その言葉でクァリアは現実に引き戻された。
「分かりましたわ。トゥスクルでの修行。立派に勤めて参ります」
「そ、そうですか。それではお願いいたします」
一抹の不安をカトゥマウは抱えつつ、クァリアはトゥスクルでの花嫁修業を行うことになった。
「聖上。急ぎこちらにお目通しを」
書斎で執務中、ベナウィが一枚の書簡を渡した。このような事は滅多にない。起こりうるとすれば、どこかで川が氾濫し、至急の工事が必要等、急を要する天災や人災が起こったときだ。
心して、ハクオロは書簡を開いた。そこには……。
我が未来の妻を修行に送る。よろしく頼む。デリホウライ
と、簡潔に書かれていた。
「なんだ?これは」
「はい。どうやら、デリホウライ皇の妻となる人が、こちらで花嫁修業をしたいとの事だと思われます」
「なるほど、なら歓迎の宴を準備しなければいけないな。で、その妻となる相手というのは何時来るのだ」
「はい」
そう言って、ベナウィは瞳を閉じ答えた。
「現在、玉座でお待ちでございます」
「はい?今何と」
「ですから、現在、玉座でお待ちです。こちらの書簡と共に参られました」
(あの国の人間はよっぽど不意打ちが、好きなのか〜〜〜。全く、デリホウライといい今回といい、準備する時間ぐらい作らせろ〜〜〜〜)
心の中で小さなハクオロが叫ぶ。が、自身は堪えた、なんとか。
「そうか、なら急いでいかねば……」
「その必要はございませんわ」
書斎の入り口から声がする。そこには握りこぶしを作り佇む少女がいた。クァリアだ。
「何時まで経っても誰も来ませんでしたから、道を尋ねて参りましたわ」
後ろに白目をむいている兵士が見える。どうやら、力づくでここまで来たらしい。さすがギリヤギナの女……。
「あ、ああ。すまなかったな……」
「まあ、いいですわ。今回はあまりに突然の来訪。心の準備すら出来ませんでしたでしょうから……」
「そう言っていただけると助かる」
どうやら、デリホウライと違って、少しは人間が出来ているようだ。ハクオロの頭の中でそう位置付けされる。
「それで、花嫁修業ですけど。いかが致しましょう?今すぐにでも出来ますわよ。薪割りでも、板割でも何でも」
(それは、花嫁修業じゃない。絶対)
心の中でハクオロは呟いた。
「そうか。しかし貴殿はこの国では国賓。今日の所は、ゆっくりと休まれてくれ」
「……。まあ、ハクオロ皇がそう仰られるなら……。」
「ベナウィ。急ぎ部屋を用意してくれ」
「御心のままに……」
ハクオロの命令にベナウィは会釈すると、入り口まで近づく。と、唐突にクァリアが思っていた事を口にした。
「ハクオロ皇は『仮面皇』と前は呼ばれていますけど……」
クァリアが言った事は以前のハクオロの話。現在のハクオロには仮面がない。エルルゥの元に帰ってきて。結局何だかんだでハクオロは皇に戻った。そのため、ハクオロが不在の際皇宮を離れた人間は全て戻っていた。ただ、以前と違うのは、部屋が一つ空いているという事だ……。
「その顔、結構かっこいいですわよ」
誉められ、少し嬉しそうにするハクオロ。が、言葉はまだ終わっていなかった。
「流石は『好色皇』ですわね。かっこよさではデリホウライ様には及びませんけど」
そのひと言で、ハクオロの頭は書斎の机にバッティングする羽目に相成った。
次の日。朝の定例報告。その場にいる少女に皆の目は釘付けになった。なにせ、昨日までいなかった少女が急に皇宮の玉座の間にいるのだ。驚かない方が、うそになる。
「こちらは、カルラゥアツゥレイから国賓としていらっしゃった……」
「クァリアと申します。未熟者ゆえこちらの国で修行させていただく事になりました。よろしく、お願い申し上げますわ」
深々と頭を下げる。豪族の娘として、立派な立ち居振舞い。だれ
が、昨日この少女が兵士達を病院(エルルゥ)送りにしたと想像できよう。
「今日は私が皇宮を案内しますね」
「ああ、よろしく頼む」
エルルゥの言葉にハクオロが答える。その顔には、エルルゥを信頼している感がある。その微妙な空気をクァリアは読み取り、口にした。
「奥方様に案内して頂き光栄ですわ」
「ぃい?”!」
クァリアの言葉にハクオロが驚く。エルルゥに至っては顔から火が出そうなほど、赤い。ことわっておくが、正室はあくまでユズハなのであしからず。
「違うのですか?てっきり夫婦かと」
「え、エルルゥ。定例報告の続きを頼む」
慌てて、ハクオロが話を進める。その慌て方は珍しい。エルルゥの方もワタワタと、報告書に戻る。
「え、えっと。最後に、『お姉ちゃんがお父さんの人形抱きながら、涎たらして笑ってた。こわい』って、何これ?」
エルルゥの報告で笑いを必死で堪えている臣下が多数。オボロやクロウも笑いを堪えるのに必死だ。
「アルルゥ〜〜〜〜〜」
ビク!いたずらを見つかりアルルゥの体がこわばる。
「また、いたずらして。あ、こら、待ちなさい」
話の途中で逃げ出したアルルゥを追って走り出すエルルゥ。その光景をポカンとクァリアは見ていた。
「では、これにて今日は散会します。皆さん、本日も頑張ってください」
慣れた感じでお開きにするベナウィ。周りも、なれたように散っていった。口々に、今日もまた面白かった、これがないと一日の活力がありませんから等口々に上がる。
「これが、この国のやり方なんですの?」
「お恥ずかしい限りで……」
ただ、この空気に慣れることが出来ないハクオロと、慣れていないクァリアが取り残されていた。
「えっと、まずはここが調理場です。ここでみなさんの食事を作ります」
まずエルルゥが案内したのはここだった。まあ、人並みの花嫁修業の定番と言えば、料理だとエルルゥが判断したためだ。
「案外狭いですし、人もいませんわね」
「ええ、兵士さん達は兵舎で食事をとりますから余程の事が無い限りこっちでは食事はとらないんです。ですから、ここはハクオロさんやみんなの分を作れる位の大きさでいいんです」
「で、どなたが作るんですの?」
「あ、わたしです」
……しばし思考整理中。はい?
「なんで奥方様が皆の食事を作りますの?」
「え、だって。料理は楽しいですし、それにわたしの手料理をハクオロさんに食べてもらいたいから……」
顔を真っ赤にして答えるエルルゥ。なんとも、男冥利に尽きる言葉だ。
「そ、そうですわね……」
エルルゥの言葉に自分が作ったらどうなるか考える。
〜想像中〜
「あなた〜。今日の食事が出来ましたわ」
「おお、そうか」
そう言って、笑顔を向けるデリホウライ。執務中には見せない私だけに向ける笑顔で出迎えてくれる。
「今日はあなたの好きなものばかり作りましたの。いつも執務が大変ですから」
「そうか、でもお前の作ってくれたものなら、どんな物でも疲れが吹き飛ぶよ」
〜以上想像完了〜
「ありですわね」
「はい?」
頭の中でデリホウライとクァリアのラブラブ生活(一部)が展開されたとは露知らずエルルゥが不思議そうな顔をする。その事を悟られまいと、ちょっと顔を赤くしてクァリアが先を進める。
「そ、それより、せっかく調理場に来たのですから何か教えてくださりません?」
「そうですね。せっかくですし。なら、食料庫に行きましょう」
「遅いなぁ。ベナウィ」
書斎で一息ついたハクオロが呟いた。さっき宮中に響いた轟音を確かめに行ったっきり戻って来ない。
「まさか、何かあったのか」
そう思い立ち上がると部屋を出る。そこに立っていたのはお茶を持ったカルラだった。
「どうなさいましたの?あるじ様」
「ん。あ、いや、さっき変な轟音がしただろう?その音の原因を確かめに行ったベナウィが戻ってこないからな、確かめに行こうと」
「ああ、そうでしたの。でしたら、心配いりませんわ。今、彼は説教中ですから」
「は?」
意味が全く分かりませんが……。その意を汲み取り、カルラは説明を開始した。
簡単な事だ。つまみ食いしていたいつもの面子(カミュ、アルルゥ、オボロ、クロウ)がつまみ食いを見つかり逃走。その際逃げ送れたクロウをクァリアが殴り飛ばし、弾丸と化したクロウが3人に命中。全員軽症で済んだ物の、エルルゥが治療。そして、今回の事で現在、ムントとベナウィが説教最強タッグを組み、お説教している。とのことだ。
「まあ、軽く見積もっても、あと5時間はかかりますわよ」
「ああ、そうか」
何か、今までしていた仕事の分の疲れが、どっと出てくる。
「で、今クァリア嬢はどうしているのだ?」
「ええ、今ウルトが子供の世話の仕方を教えてますわ。もうすぐトウカと交代の時間ですけど」
「そうか、なら安心だな」
ウルトに絶対的な信頼感を持っているハクオロが口にした言葉。その言葉にカルラは笑った。
「まずは綺麗にお尻を拭いて……」
そう言いクァリアは手をとられるままに赤子のお尻を拭き上げる。そして、そのままオムツをたたんでいく。
「ここを二つに折ってこうして……。これで大丈夫です」
その宣言どおり、子供に綺麗にオムツが巻かれる。
「ぁあ〜、ぅ〜」
さっきまで泣いていた子供も、すっかり笑顔になる。すこぶる機嫌がよさそうだ。
「手馴れた物ですわね」
「子供が……すきですから」
その言葉を悲しげに呟く。
「なら、ご自分の子供を待たれてはいかがです?」
「?ウルトリィ殿よろしいか?」
なぜ、ここにクァリアが居るのか分からないトウカが声を上げて、部屋に入る。が、ウルトリィはクァリアの言葉に気を取られていた。
「で、ですが」
「当たり前ではないのですか?あれほど優秀な皇の子供ですもの。各地の豪族も欲しいと思いますわ」
「そ、それはそうでしょうけど」
ウルトリィはうろたえている。言っている事が間違えと言うわけでもないし、無意味に言葉に説得力がある。
「ウルトリィ殿?」
近づき、トウカが話の輪の中に入り込む、そんな事を無視して、クァリアは続けた。
「豪族だけではありませんわ。各地の種族でも、ハクオロ皇の血を継承したいと考えているはずです」
「!!そうなのか?」
ハクオロ皇の血を継承する。その言葉にトウカも話しに聞き入る。
「なら、どんどん積極的にハクオロ様に子作りして戴かないと、各地にハクオロ様の子が居るのに自分には居ない。何てことになるかもしれませんよ」
「!!」
「!!」
二人ともスクと立ち上がる。そして。
「クァリアさん。少し、この子をお願いしますね」
「某も急用が出来たゆえ戻りまする」
そう言うと、二人は風のように一気に駆け抜けていった。
ぽきぽきと関節が鳴る。長時間座りっぱなしで事務作業。使われない骨がたまに動かされ鳴いていた。
「ふぅ〜、ようやく一段落か」
なんとか、仕事の方も一区切り見通しがついた。
「今日は早く上がれそうだ。そうしたら、我が子に会うのもいい。それに久しぶりにアルルゥに構ってあげられそうだ」
いつも、いつも仕事で結局遊べる時間が少ないハクオロにとって、こう言う早く終われそうな時は極力、子供達との時間を作ることに決めていた。
と、耳に何かが近づく音が聞こえる。二つも。かなりの勢いで。
「な、なんだ?一体」
そう思ったのもつかの間。えらく土煙を上げて人が入って来る。ウルトと、トウカだ。
「ハクオロ様」
「聖上」
二人、同時に声を上げる。
「は、はい?」
あまりの勢いにハクオロは後ずさろうとした。が、後ろは机があり、逃げることは困難だ。
「今日は私の相手をしていただきたいのです」
「聖上、今日こそ、某に聖上の子を」
「ハイ?」
あまりの事にハクオロの声が裏返る。何せ、二人の目は尋常じゃない。ある種何かに憑かれていた。
「ハクオロ様」
「聖上」
ずんずん近寄る二人に、ハクオロはなすすべはなかった。
「た、いくつですわ」
ハクオロからあてがわれた部屋で寝転がりながら呟いた。
エルルゥは昨日の事故の看護に追われているし。ウルトとトウカは昨日の暴走でハクオロと共に寝ている。
という事は、まともに花嫁修業をつけれる人間が少なくなっていた。しかも、指示を出すハクオロはダウン、ベナウィはハクオロが起きた時に備え、今日中に目を通していただく書類の準備なので誰もクァリアに構う人間は居なかった。
「早く修行を終えてデリホウライ様の元に帰らないと行けないのに」
「あら、修行は数日で終わる物じゃありませんわ」
部屋の入り口に立っていたのはカルラだった。手には酒を入れた携帯用の壺がある。どうやら、いつも通り酒蔵を漁った帰りのようだ。
「なんですの?突然」
「暇ですの。少し稽古をしません?」
微笑みながらの提案。が、その空気は拒否を完全に受け付けないものだ。まるで、獲物を捕獲した虎の様。もし、この空気が無ければ、クァリアはこの提案を却下していただろう。なぜなら。
(なんで、奴隷のいう事など聞かないといけないの!!)
と思ったりしたのだが、この空気に負け。
「わ、分かりましたわ」
カルラの提案を受け入れた。
兵士達が、訓練している広場。そこは異様な空気に包まれていた。
兵士達は訓練をせず、代わりに観客に成り下がっている。が、これは仕方の無い事だ。何故なら。ギリヤギナ族同士の対決。こんなに面白そうなイベントを見逃す兵士達ではない。
「それでは」
「行きますわ」
宣言と同時にクァリアが駆ける。走るというよりは飛ぶと言った方が早い。高さの代わり移動距離を戴き、一気に間合いを詰める。
腕を捻りながらの素早い拳。しかし、カルラは腕で相手の腕を弾く。お返しとばかり、カルラも拳を放つ。が、クァリアの防御が間に合う。腕で防ぐ。
バンと、音が響く。軸足を固定させたクァリアの足音だ。固定した軸足を利用し、腰を回転させ、蹴りを放つ。が、急所を狙った一撃。何とかカルラは急所に当たる事だけは免れた。
(本能的に憶えているギリヤギナ本来の戦い方……。どうやら、なまじ訓練を受けていない分、荒削りですわね。けど、この娘。ひょっとしたらあの子より腕が立つかもしれませんわね)
嬉しく笑う。なにせ、弟の嫁がこのように強いのだ。戦いを好む血がこの子を歓迎している。
「戦いで笑うなんて、不謹慎ですわ」
クァリアが言う。その間も攻撃を加え、カルラに休ませる所か、反撃の一撃さえ与えない。
「そうですわね」
また、笑う。その笑いがクァリアの怒りに火をつけた。
「なにやってんだ?」
「「あ、若様」」
エルルゥの看護を終えた、オボロが呟く。その声に一番に反応したのはドリィとグラァだった。まあ、兵士達が自主訓練をせずに見物していたのなら、聞きたい気持ちは良く分かる。
「おぅ。カルラと、カルラゥアツゥレイの姫君が戦ってやがる」
オボロの後ろからクロウが言う。背丈の高い分、クロウの方が見やすい。
「すげえな。あの姫さん。カルラ相手に一歩も引けを取らねえ」
「カルラが遊んでるんだろ?っと、お、うまそうな団子」
「何?」
ドリィとグラァが手に持っていた皿。その上には団子が確かに乗っていた。
「あ、これは後で自分で味見をするとクァリア様が……」
「いただき」
「てめぇ、ずるいぞ」
ドリィの言葉の途中でオボロとクロウが団子を手にとり食べる。
「う」
「ぐぅ」
「「若様?!」」
二人共顔を下げる。様子がおかしい。心配そうに見つめるドリィとグラァ。が、すぐに顔を上げた。
「うめぇ」
「てめぇ、オレにもよこせ」
こうして、二人はカルラの勝負より団子に目を移していた。
(攻撃が当たっても、なんとか耐えられるなんて)
今までのクァリアの経験ではありえない事だ。
(誰であれ、一撃で屠る)
呼吸を深くつき。一気に拳を撃ち込む。バンと炸裂音と共に拳から手ごたえを感じた。
(これで、終わりですわ)
そう思う。が、カルラはその攻撃を受け、微笑んだ。余裕で、受け止めたからだ。
「な!!」
驚くのもつかの間だった。攻撃が止まってしまった瞬間。バンと、響く音を受け、クァリアの体が空に舞う。きりもみ回転しながら吹き飛んでいった。
「勝負、ありですわね」
そう呟くと、カルラは体から力を抜いた。これ以上戦う気はない。相手が立ちあがってこない限りは……。
「う、うそでしょう?」
力なく呟く。体から起こる痛み。何より負けたと言う敗北感が自身を包んでいる。悔しくて、涙がこぼれた。
「稽古を付けて差し上げたのですから。礼を言うのは当然じゃありません?」
さらにカルラの追い討ち。が、カルラはさらに言葉を続けた。
「誰に対してでも、自身の成長につながったのであれば、礼をする。カルラゥアツゥレイの妃になるのでしたら。出来なければおかしいですわ!」
悔しそうに唇をかみ締めるクァリア。だが、気力を奮い立たせ、立ち上がった。
「ありがとう、ございました」
言い終わると同時に倒れこむ。どうやら、完全に力を使い果たしたようだ。
「しょうがありませんわね。つかまりなさい」
「ありがとうございます。お姉さま」
ビクンとカルラの体が震える。まさか、義姉さまと言われるとは。
(あるじ様、まさか言ったわけでは無いですわね)
内心に秘める炎を見せずにいるカルラ。
「同じギリヤギナ族で、私より強いのですもの。お姉さまと呼んでよろしいかしら?名前も教えていただいていませんし」
「そうですわね……」
この瞬間、今日のハクオロの葬儀は中止になった。
「よろしい……」
答えようとした瞬間にあまりに絶妙なタイミングで後方から激しい鍔競り合いが聞こえる。
「な、なんですの?」
事情が完全に飲み込めず、音のする方向を向くクァリア。そこに、二人が駆け込んできた。ドリィとグラァだ。
「大変です。若様とクロウ様が、クァリア様がお造りになった団子をつまみ食いして」
「何故か激しく戦いあっているんです」
その光景は戦場でも見られない程壮絶だった。何せ気力マックスでしか使えないはずの必殺技を連発して戦っているのだから。
「何を入れましたの?」
造った張本人のクァリアに尋ねる。すると。
「紅皇バチの蜜を少々。あとは、我が家に伝わる疲労回復の薬を入れたつもりだったのですが、どうやら筋肉増強剤の方が入ってしまったみたいですわね」
紅皇バチの蜜。確か幻覚を見せるという話だ。それに筋肉増強剤。幻覚と戦い、しかも、通常の3倍で戦う二人……。
「「カルラ様、若様を止めてください」」
二人同時のハモり。その言葉にカルラは。
「お断りしますわ」
「「え」」
「たまにはつまみ食いを控えるきっかけになるでしょ?いい薬ですわ」
「それに、自分のした事くらい自分で責任取ってもらわないと」
カルラの言葉に続けたのはクァリアだ。団子を食われ若干声のトーンが上がっている。
「それより大丈夫かしら?」
「ちょっと、薬師の所まで行って来ますわ」
「肩に捕まりなさい。クァリア」
「ハイ。お姉さま」
そう言うと二人は去って行った。残されたドリィとグラァは何時切れるとも知らない幻覚を待ち、おろおろしていた。
「だいぶお疲れのようですね。聖上」
「昨日は寝せてもらえなかったからな」
げんなりとした表情で歩くハクオロとベナウィ。エルルゥに薬をもらい、書斎に戻る所だ。
「エルルゥ様に聞かれたら大変ですよ」
「それを言うなよ。今、聞かれてないか心配だったんだから」
など、たわいの無い話の途中。前から歩いてくる人が居る。カルラの肩に掴まったクァリアだ。
「あら、あるじ様」
「どうしたんだ?一体」
「ちょっと、カルラお姉さまに稽古を付けて頂いただけですわ」
「お姉さま!?」
クァリアの反応に過剰に反応するハクオロ。そのハクオロにカルラが事情を説明した。
「稽古に負けて私を姉と慕ってくれているんですの」
「あ、ああ。なるほど」
(まさか、自分からデリホウライの姉だって言ったのかと思ったぞ)
(まさか、その様な事を言うわけありませんわ)
アイコンタクトで会話する二人。そこに後ろからまた人が近づいてくる。ドリィとグラァだ。どうやら、もう勝負はついたらしい。
「どうしたんだ?また担ぎ込まれて」
「自業自得ですわ」
クァリアが二人に代わって答える。
「?まあ、いいが」
納得の出来ない表情を浮かべるハクオロ。だが、つぎの質問の前にクァリアが口を開いた。
「しかし、大変ですわね。あの双子の女の子、常に心配しているのではありません?」
クァリア以外全員の思考が止まる。何とか一番最初に回復したのはハクオロだった。
「双子の女の子?どこに居る」
「そこですわ」
そう言って指した先。そこにいるのはドリィとグラァだ。
「ちなみに言って置きますが。二人は男ですよ」
何とか回復したベナウィが答えた。
「え、うそ。だって」
まさか男だったとは、信じられないと言った感じでオロオロするクァリア。そこにハクオロのいたずら心がムクムクと浮上してきた。
〜想像中〜
「何だったら確認してみるか」
そう言うと、二人は脱ごうとするだろう。そして、二人の裸にキャーキャー言うクァリア
〜想像完了〜
「何だったら確認してみるか」
「え?”」
驚くクァリアだが、次の瞬間にはハクオロの方が驚いた。
「「おことわりします」」
二人同時に断られた。その言葉に『え』と呟いたのはハクオロだ。
「若様や兄者様以外に裸を見られるなんて」
とドリィ。
「絶対に嫌です」
「な”」
驚くハクオロ。だが、それよりすごいのは、周囲の視線だ。
かなり、冷たい。
「聖上……」
「あるじ様が、そんな……」
カルラが笑いながら言う。絶対違うと分かっていながら言っている言葉だ。そして、最も冷たい視線を送っているのは、クァリアだ。
「『好色皇』と聞いていましたけど。まさか男女問わずだなんて。不潔ですわ」
「ちょっと、待て〜私は」
ハクオロが言う前に背後でガタンと扉が開く音がした。後ろに立っていた者、エルルゥだ。
「男女問わず……」
目の焦点が定まらず。呆然と呟くエルルゥ。
「え。エルルゥ」
「あ、私。ハクオロさんがどんな趣味でも気にしていませんから」
「ちょ、違う。誤解だ」
「あ、皆さん。治療でしたら部屋に入ってください。すぐ見ますから」
ハクオロの言葉をスルーするエルルゥ。完全にハクオロが男色の気があると認識してしまっている。
エルルゥの声に、クァリアを含め、全員が入る。ベナウィとハクオロを除いて……。
「違うんだぁ〜」
力なく崩れ去るハクオロに、ベナウィは声すら掛けられなかった。(その後、トゥスクルのハクオロ皇は、男女問わず好色皇と言われるが、それは別の話)
「クァリア・リスターン。ただいま戻りましたわ」
すったもんだの1ヶ月の修行を終え、クァリアはカルラゥアツゥレイに戻って来た。トゥスクルでの修行を勤め上げた結果である。
「おお、戻ったか」
デリホウライ皇が玉座に座り、言う。嬉しそうなのだが、何かを期待している。そんな感じだ。
「ある方より、託がありますわ」
「なに?早く言ってくれ」
デリホウライがせかす。その言葉に、クァリアは笑った。そして、玉座に近づくき……。
回転を加えたボディーブロウがデリホウライを襲った。玉座の御蔭で吹き飛ばなかったが、無ければかなり宙を舞っていただろう。周囲の家臣たちは、目を丸くさせ、声にならない悲鳴をあげている。
「託です。自分の妻が帰って来たにも関わらず、労いの言葉もかけずに他の事に現を抜かしているならば、容赦なく私仕込みのパンチを食らわせなさい。との事ですわ」
「う、ふふ。はは、そうか」
何とか気絶せず。デリホウライは立ち上がった。そして、力いっぱいクァリアを抱きしめた。
「すまなかったな。お帰り。我が妻よ」
「ただいま。戻りましたわ」
突然の抱擁にクァリアは驚いた。が、抱きしめられ、思いっきりデリホウライの胸に、顔をうずめた。
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