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『家(上)』
聖上がニウェ皇を討ち取られての帰り道。某は少し無理を言って、陣を離れた。
聖上にとって、ニウェ皇は家族の仇。某にとっても、忘れられない。
幾ら滅ぼされた名も無き小国を救ったとしても某にとっても仇である。一時は共に戦ったオリカカン皇の仇。いくら、あの国を救ったとしても、それは、忘れられない。
「く、某と、した事が」
体を震わせ、呟いた。体は思う様に動かない。薬で体を麻痺させられているのだから。
「頭、ちょっと抜けてますが中々の上玉ですぜ」
「へ、違いねえ。まあ、壊れる前に味見しておくのも悪くねえか」
「な」
体の自由が利けば、立ち上がり、切るところだが、未だにしびれたままだ。
「それじゃ、頭。存分に味見して……」
その先は言えなかった。なぜなら。
体を二つに斬られ、話せる者など居ない。下から上に向かっての一閃。血が弾け飛ぶ。
「な」
「婦女子を薬で動けなくしての暴漢とは、あまり感心せんがな」
下男を斬った年端15.6も満たない少女が呟く。その声は、かなり面倒くさそうに呟く。いや、感情自体が希薄で、どうでもいいと目が語っていた。
「貴様」
「おぬし等が黒連猿の首領であろう?」
文句を受け流し、少女が問う。怒りの形相だった。首領の顔が少し笑う。
黒連猿と言えば、名高い悪党。トウカの顔に驚きが走る。と共に、この少女への心配があった。黒連猿の首領は、ギリヤギナ。生半可な強さでは、勝ち目はない。
「だとしたら、どうすんだよ」
言うと同時に足を踏み、一気に駆けだす。風よりも早い動き、どうあっても捕らえられるほどの行動。が。
ズザァザァ!
思い切り地面を滑る音だけが響く。首を動かし、トウカが見る。そこには首領の攻撃をかわした少女がいた。
「な」
「手向けだ名乗ろう」
あれだけの事をしておいて、何の感情も起きていない。それどころか、あの攻撃を見たにも関わらず平然としている。それどころか、つまらなそうに首領を見ている。
「電光のセッカ。いざ参る」
名乗りと同時に足が踏み込まれる。トウカの目の動きはそこまでだった。次の瞬間には、離れた間合いを一気にゼロにし、相手の懐をバサリと斬っていた。
「な」
首領が痛みの声を上げる。が、その間にセッカは刀を翻し、下から上へ逆袈裟に斬る。相手の反応より先に入る太刀筋。幾重にも造られていく刀傷。その攻撃に情けなど無い。情けをかけるという気持ちは無く、ただ相手が動かなくなるまで斬り伏せるのみ。
「?」
奇妙だった。なぜ、ここまでいたぶり続けるのだろうか?
「もう、勝負は、ついたであろう?攻撃を止められよ」
何とか、体が動くようになる。どうやら、薬は即効性を重視させたもので、持続力はないらしい。
「ふむ。まぁこれ以上攻撃しても死ぬだけか。ならば、この程度にしておこう」
懐から紙を取り出し、刀に纏わりつく血を拭う。刃こぼれ一つしていない。刃を一瞥すると、鞘に戻した。相手は、すでに気絶している。が、あれだけの手傷を負っていながら、死ぬ気配はない。
セッカはトウカを一瞥すると、首領と呼ばれた男を担いだ。
「?何をされるのだ」
ようやく薬から解放された体を動かし、問う。事も無げにセッカは答えた。相変わらず、感情の起伏がない。
「こやつを売れば、多少の路銀になる。まあ、この『野党退治屋』は副業だがな」
『野党退治屋』 国に住む野党どもを退治して、その謝礼で生活する者達だ。そして、その謝礼を得るためには、首領を生かさなければならない。見せしめとして、処刑するために……。
「それではな」
首領を背負い歩き出す。
「ま、待って下され」
「フゥ、面倒くさい」
セッカに面倒くさいと言われ、一瞬言葉に詰まる。が、意を決し、言った。
「某の名はトウカ。助けていただいた恩義を返すため、行動を共にしたい。ぜひとも、お願い致しまする」
言うトウカを無視して歩き出すセッカ。男を一人担いでいるのでゆっくりだ。
「ぜひ、お願い致しまする」
回り込み、土下座で請うトウカ。そんなトウカの姿を見て、セッカは呟いた。
「どうせ、駄目だと言ってもついてくるのであろう?ならば、ついて来るがいいさ」
そう、言うとまたテクテクと歩き出す。そのセッカの後ろをトウカは付いて行った。
セッカの本業とも言うべきものは行商だった。諸国を渡り歩き得た珍品などを豪族などに売るのも、仕事。そして、手に入れた武器を売り裁くのも仕事だった。
「しかし、すごいですな。この様にウマを使って行商等行うとは」
「別にすごくは無い。譲って戴いた物だからな」
相変わらず淡々として取り付く島なしのセッカの言葉。だが、気を取り直しトウカは会話を続けた。
「これだけの物を仕入れようとすると、金もかかるであろう?」
「そのための、副業だ。大した物じゃない」
「なぜ、あれほどの力を持ちながら傭兵として戦わないのだ?セッカ殿の腕前なら十分通用すると思うのだが」
「…………」
トウカの言葉に小声で呟くセッカ。その声は聞き取りづらい。
「え、今何と?」
「目的地に着いたと、言ったのだ」
ぶっきらぼうにセッカはいう。その声は心なしか、いつもより感情がこもっているようにトウカには感じ取れた。
ここは、悪政の限りを尽くされ、貧困に喘ぐ民を救うために立ち上がった義勇軍の陣。そこが、セッカの言う目的地だった。
「おお、セッカ殿。いつも済まぬ」
「互い様だ。気にするな」
抑揚の無い声。商売人として必要な愛想と言う物が、完全に欠如していた。にも関わらず、反乱軍の大将、ジンガラは笑っている。多分、セッカの人柄と言う者を理解しているのだなと、トウカは感じ取っていた。
「では、交渉しよう。剣に槍に弓矢。それに、薬の材料っと、これくらいでよいか?」
懐からソロバンをはじき出し。素早く打ち込むセッカ。手馴れた者だとトウカは感心していた。
「う”いや、もう少しまからんか?」
「ならば、これでどうだ?」
淡々といい、パチパチと珠をはじく。遠くからでは値段は分からないが、かなりの額だ。
「う、本当に少しだけだな」
「これ以上は銅貨一枚もまからない」
「う〜……。分かった。明日払おう」
その言葉に、セッカは眉根を寄せる。そして、率直に言った。
「明日?いつも即日払いなのにか?」
「いいじゃねえか、今日は宴を開くんだからよ」
「宴?」
「ああ、長い事掛ってしまったからな、このままじゃ、これ以上長引かせても、兵を疲労させるだけだ。明後日。城の抜け穴を通って城主の首を取る」
迷いの無い決意。そこに至るまでの苦労は並々ならぬ物ではないだろう。それでも、その決断をしたお蔭で顔は晴れ晴れとした物になっている。
「ま、その前に兵を労いたくてな。ま、ついでに、今まで危険顧みず物売ってくれたあんたにも参加してもらおうと思ってさ」
「なるほど、強制参加というわけか。ふぅ、嫌だと言っても無理に参加させるのであろう?ならば、構わんよ。参加しよう」
「ま、お前はそう言うと思ったがな。それより、後ろのは……」
見慣れないトウカの姿に今度はジンガラが眉を寄せる。セッカは少し微笑み、言った。
「トウカ殿だ。わしに恩義を返すまで付いて行くと決めている、エヴェンクルガだ。」
「某はトウカと申す。セッカ殿に恩義を果たすという目的がなければ、この度戦に参加したかったが」
「いいって、義を尊び、義を重んじるだろ?無理に参加してくれ、何ていわねえさ。ま、今日の宴、存分に楽しんでくれや」
「かたじけない」
そう言って、しばらくして、宴は始まった。酒を飲み、多量の料理に舌鼓を打ち、そして、体の赴くまま、踊る。
それは、朝方まで続いた。そのとき、トウカがもし、目覚めていれば、歴史は変わっていただろう。だが、その時のトウカは、酒を飲んで寝てしまっていた。
「そんな……」
トウカの呟きがセッカの耳にも届く。数日たった皇宮の前。そこにあったのは、反乱軍の晒された首だった。ジンガラはもちろん。あの時の酒宴に参加していた者の首が、晒されている。晒されていない者は、多分、名も無き兵くらいだろう。
「なぜ……」
悲痛な声。例え一時であっても共に酒を酌み交わした者達の死。その悲しみから、トウカは耐えていた。セッカは何も言わない。ただ、静かにもの映らぬ彼らの瞳を見つめていた。
「明日旅立つ」
淡々と言われたセッカの言葉。一晩の宿の中でトウカは眠れずにいた。昼間の事、そして、数日前の事が、頭から離れられる物ではない。
ギィ。ギシギシ……。扉が開き、足音が耳に届く。
(あの方向はセッカ殿の部屋か?)
足音が遠ざかるのを確認した後、セッカの部屋に向かう。そこに、セッカは居なかった。
(この様な時分に何処へ)
足音が向かった方向に向かう。そこは、玄関だ。戸を開き、外をうかがう。遠くにセッカが歩いていくのが見える。
その後を、トウカは気付かれないように後を追った。
セッカが立ち止まる。そこは、ジンガラ達の首が置かれている場所だった。祈りを捧げている。気付かれない程度にトウカは近づいた。
そして、聞こえてくるのは、呪詛の様に漏れてくる。呟き。
「本当なら、許してくれ等言えないのは分かっている。だが、トウカ殿は関係ないのだ」
(何を言っておられる。なぜ謝る)
セッカの告白の意味がトウカには分からない。ただ、セッカの様子がただならないというのだけが、トウカにわかる唯一の事。
「すまない」
そう言うと、セッカはしゃがみ込んだ。耐え切れない悲しみから、身を守るように。
「どう言う事なのです」
気がつくと、トウカはセッカに近寄っていた。まるで何かに執り付かれたように……。
「貴方は何をしたのです」
その言葉にセッカは振り向く。彼女は泣いていた。
「何故、一人で背負おうとするのです。某では相談役にもなりませんか?」
「違う」
声を荒げ、言う。その声にトウカは驚く。が、その後聞こえてきたのは。
「違う……」
泣きながら繰り返される言葉。その言葉に力は無い。ただ、後悔するように繰り返す。
トウカは静かにセッカを抱きしめた。今の彼女は、普段の淡々としている感情のない人形の様なセッカではない。ただ、悲しみに押しつぶされないように耐えている年相応の少女だった。
「!」
ぽつりぽつり語りだした彼女の言葉。それは、事の顛末だった。陣で宴が開かれたあの日。彼女は陣を抜け出し向かった先。それは、皇宮だった。
彼女の仕事、それは間者。そこで彼女が洩らした事それは、反乱軍にとって致命的とも言える事だった。最重要の機密、抜け穴からの奇襲を洩らされたのだから。そして、なぜ、彼女がこの国の皇宮に情報を売ったのかも……。
「許せん」
「わしだって許してもらえないのは分かっている。だが」
「違う」
セッカの言葉をトウカは遮った。その顔に浮かんでいるのは悔しさだった。
「ひと言、ひと言でも某に相談してくだされば、よかったのに」
自身の恩人が苦しんでいるのに、何も知らずにいた自分。その無力さが、堪らなかった。
「すまん」
悔しさで涙を流すトウカにセッカは力なく謝っていた。
宿屋で荷をまとめているセッカだが。何時まで経っても、トウカが降りてこない。
「まさかな」
一抹の不安。その心配が嘘であるように祈り、セッカはトウカの部屋へ向かう。が、扉を開けても、トウカの姿は無い。
「……」
的中するは不安のみ。自分の作った格言が響く。踵を返すと、セッカは急ぎ駆け出した。
「ふん。これが、賊か」
興味なさげに皇が呟く。皇の前に縛り上げられた人間。それは、トウカだった。
「く」
にらみで人を殺せるなら殺すというほど力を込めて睨む。が、そんな事も長くは続かない。すぐに、地に頭を付けさせられた。
「いかが致します」
鎧を纏った男が尋ねる。この場に居合わせているという事から、この国の侍大将だろう。
「まあ、いきなり、門の前で一騎打ちを挑もうとする愚か者だが、エヴェンクルガーはエヴェンクルガーか。ま、オレの子供を産ませるにはいいかもな。強い跡取ができるだろうさ」
「殺せ」
地に頭をつけられても、なお睨み、呟く。
「その様な生き恥を晒すくらいなら殺せ、貴様に抱かれる気は毛頭無い!」
「減らず口が何処まで通じるかな。おい、あれを持ってこい。あれならどんな女でも従順になるだろ」
「はっ、……ん?」
侍大将が行こうとした所、入り口に人影が見える。セッカだ。
「おう、お前か。どうした」
「すみませぬ。どうもわしの連れがこちらに参った様で。兵達に無理言って、通していただいた次第です。それで、連れを帰して戴けるか?」
そう言うと、深々と頭を下げた。
「それは、出来ねえ相談だな。おれが、今決めたんだからな」
「そうか。それは……」
悟られないように腕が動く。静かにだが、確実にそれに手を掛けた。
「残念だな」
言うと同時に刀が翻る。トウカを縛る縄と同時に、兵の腕を斬る。
「ぎゃぁあああ。腕が、腕が」
血を流し、腕を抑える兵士。その間にトウカは自身に掛った戒めから解き放たれた。
「貴様!」
侍大将が刀を抜く。その前に、セッカが動いた。刹那に相手の懐に入り込む。そして、一刃で相手の鎧を切り裂く。その間に相手が切ろうとする刃を、まるで見ているかのように避ける。そして、相手が攻撃を外し、次の攻撃に移ろうとする僅かな間に、セッカの刀が相手の首を撥ねた。
指令を司る頭部を失い、力なく倒れこむ侍大将。部屋に居るのは、トウカたちと、この国の皇のみ、兵達は、あまりの太刀裁きに逃げ出していた。
「てめえ。あれはいらねえんだな」
切り札とも言うべき言葉を放つ、皇。だが、その言葉にセッカは場違いに笑った。冷ややかに、相手を見下して。
「貴公を殺した後で捜せば済む。それに、どうせないのだろう?」
「な」
言った後ですぐに口を抑える。あまりの言葉に、皇の口から出た言葉は、それだけで、事実を告げていた。
「そうか。わしの所為で死んでいった者たちは、このような虚言のために散っていったのだな」
睨み、刀を構える。そして、風のように相手に駆け寄った。
「く、調子に乗るなや」
玉座から立ち上がり、皇は携えていた巨剣を振る。カウンターを狙った見事な一撃。相手の速度を読み、剣の間合いと同時に振る。
「あぶない」
トウカが叫ぶ。が、その時に見たのは、信じられない光景だった。バンという破裂するほどの轟音と共に、セッカは直角に飛び、相手の剣を避けたのだ。そして、着地と同時に地を蹴り、一気に懐に入り込む。そして。
ぼとぼと……。
物が大量に落ちる音。皇の指をセッカは一撃で全て落としていた。
「ぐぁああ」
「苦しいか?」
凍えるほどの冷たい声。その声に、皇の背筋は凍りつく。
「皆は、反乱軍の皆はもっと苦しかったろうな」
その声に感情は無い。ただあるのは、相手に与える死の宣告。
「せめて、皆の所には行くな。貴様は」
そう言うと、一気に刀が線を描いた。
「先に地獄で待っていろ。じきにわしも行くからな」
即死だった。剣の軌道は完全に相手の首を断っていたのだから。
これが、この国の末路。その後、ここは新たに皇を立てた。だが、新たに立てた皇は無力だった。隣国のシケリペチムの前に成すすべなく吸収されていった。皮肉な事に、前より民の生活に潤いがでていた。
「また、助けられてしまったな」
皇宮を離れ、トウカが呟いた。皇を殺したのだ。そのままあの場にと言うわけには行かない。せめてもの救いは、掴まった時に取り上げられたトウカの刀を持って来れた事ぐらいだ。
「いや」
トウカの言葉にセッカは首を横に振った。
「救われたのはわしの方だ。目的のために皆を犠牲にした自分。そんなわしを静かに抱きしめてくれた主がいたから。わしは後悔しても、そのまま後悔に引き込まれずに済んだ」
「だが、セッカ殿」
静かに目を閉じ、静かに首を振る。これ以上は話はない。と暗に語っていた。
「これ以上は水掛け論だろう?ならば、無駄に時間を経過させることは無い。それより」
そう切り出し、完全に話題を変えた。
「これからどうする?」
「もちろん、セッカ殿について行きまする」
「いや、わし等一緒の旅もここまでだ」
そう言って、場違いに笑みを浮かべた。笑うと言うよりは、相手を安心させるための微笑み。その顔が年相応にセッカにふさわしい笑顔だ。
「そんな」
「女子が背負うエヴェンクルガの里降りの意味を忘れたわけではあるまい?」
「!」
忘れていた訳ではない。その事はエヴェンクルガの存続に関わる重大な事だからだ。
「なら、今の主に大事なのは、仕えるべき主君を捜す事。ではないのか?」
「しかし、某にはセッカ殿に義を返す。という義務が」
「わしには十分返してもらったつもりだがな」
そう言われ、いつもの通りの面倒くさがりの表情に戻る。そして、そう言いながら、懐から、一本の小刀を取り出し、手渡した。
「これは?」
「わしが行商になる時に友からもらった物だ。それを、わしの代わりに大事にしてくれることが、わしにとっては恩返しになる」
「それでは、某の気が」
その言葉に笑顔を浮かべ言った。
「この様なこと、友達にしか頼めんよ」
「お…、……か、と……か」
「ん?」
「トウカ」
ようやく頭が混濁した意識から覚める。
(あれは、夢?)
先ほどまでの脳内に映し出される映像を思い出す。そう、あれは、昔の夢。
(そう言われれば、セッカ殿は某の前で笑っていなかったな。分かれる時もいつも通りの何処を見ているのか分からないような顔だった気が)
思い出とは、多少美化される。その事を実感したような気がした。
呆然と宙をさまよっていた視線。その先に見覚えのある鋭い切れ長の目、オボロだ。
「おい、いい加減起きろ」
(ん?いい加減とはどういう事だ。)
「そろそろ朝礼だぞ」
「!」
ガバッと起き上がる。目の前にオボロが居るにも関わらず。
がん!ぶつけ合ったおでことおでこ。トウカの意識は完全に目覚めた。
「いつぅぅぅ。とにかく、早くしろよ」
「わ、分かった」
そう言い、トウカの部屋をオボロは立ち去る。それはそうだ。このままだと、また、いつ吹き飛ばされるか分からない。婦女子の着替えを覗くなど、言語道断の行為だ。
「夢か」
さっきまでの映像を頭の中で反芻する。数日前。彼等の墓参りをして、意識があの時の事に向かったからだろう。
「友達か」
そう言い、机にしまってある小刀を取り出した。そして、鞘を抜く。そこには、自身の姿が映し出されるほど、綺麗に磨き上げられた刀身があった。その刀にトウカの微笑が映し出される。旅をして初めて、出会った友からの授かり物。それが、トウカにとって嬉しかった。
『いずれ、御主が誰か、主君に仕えたのであれば、会いに行くよ』
それが、トウカの憶えているセッカとの別れの言葉。その言葉を信じて、トウカは刀を仕舞った。
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