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「憧れた者ー魂への子守唄(ユカウラ)ー」



 ハクオロが帰って来てから、何日か経った日の事だった。
「んっ?……オボロ、誰と話しているんだ?」
 ハクオロが部屋の外を見ていたら、下でオボロが誰かは分からないが、女性と話をしている。
 その女性は、赤ちゃんを抱いている。
 耳から見て、ユズハと一緒のようだ。
「……まあ、後で聞くか」
 そうして、ハクオロは部屋の中に戻っていった。

 その日の晩、ハクオロは飯を食べているオボロに、さっきの事を聞いてみた。
「オボロ、さっき話していた女性は誰なんだ?」
「んっ……?」
 オボロは、少し考えながら、おかずを突付いていた。
「昼間のことだ」
「ふぁふぁ、ふぁふぇくぁっ(ああ、あれか)」
「食ってから言ってくれ」
 オボロは、茶を飲んで一気に胃に流し込む。
「ぷはぁ。あれは……あいつは、俺の………部下だった奴の妻だ」
「そうか。だが、そうならなぜお前と話している?普通、夫が死んだら隊長は恨まれるものだろう」
「確かにそうかもしれんが、あいつは事情があるからだ」
「事情?」
「どんな事情です?」
 オボロの言葉に、トウカが入り込んできた。
「………ちょうどいい、ちゃんと話してやるから、お前も聞いてろ」
「分かりました」
 そして、オボロがその話をし始めた。
 その話は…

「遅いぞ!」
「くっ!」
 キ――ン!
 稽古場でオボロと稽古をしていた者が、剣を弾かれていた。
「だがっ!」
 だが、その者はオボロと同じく二刀流だったので、残りの一本で攻めた。
 キィ―――ン!
 しかし、残りの一本が地面に刺さるまでに、それほど時間はかからなかった。

「まだ、甘いぞ」
「すみません。もっとがんばります!」
「ああ、そうしろ」
 そう言って、オボロはベナウィの所へ、手合わせに行った。
「クッ……もっとだ、もっと鍛えねえと」
「お前、またやってんのか?」
「んっ…ああ、バグネイか」
 話し掛けた男は、先ほど剣を弾かれた者の、同僚だった。
「二人とも、何をしている?」
「何をって、話を」
「そうか、だがバグネイはいいとして、ゾンヌは鍛えなくて良いのか?」
「そう言うザンクこそいいのかよ?ベナウィ様にどやされないか?」
 三人は、同僚だが教わっている人は違う。
 バグネイはクロウに、ザンクはベナウィに、そしてゾンヌはオボロに習っている。
 しかし、バグネイは剛剣使いだが、何故かクロウのところで習っている。
「私か?私の稽古はもう、終わった」
「そうか」
 ゾンヌは聞きながら、自分の剣を拾っていた。
「でっ……どうだった?」
「……また、負けた」
 ゾンヌは剣を鞘に仕舞い、ザンクに近づく。
「そうだよなー」
「無理だよな、あの三人に勝つなんて」
 バグネイが、愚痴の様に言った。
「確かに」
 三人は、空を見ていた。

 翌日。
「疲れた」
「まだ甘い、これじゃ、練習相手にもならんぞ」
「すみません」
「まあ、がんばれよ」
「はい!」
 オボロは、ゾンヌにそう言うと、また、ベナウィの所に手合わせに行った。
「・・・・・・・・」
「どうしたよ?」
「バグネイか」
 バグネイがいつの間にか側にいた。
「ああ、どうせ負けたんだろ?」
「ああ、言い返せねえがな」
「まあそう言うなって、俺もだよ」
「私もだな」
 ザンクがそう言いながら近づいてきた。
「……なあ、誰か勝てる奴って………いるのか?」
「皇だけが、全員に勝ったことがあるらしいぞ」
「……すげえな!」
「それだけではなく、この国をここまで豊かにしたのも皇のお陰だ」
「ふーん」
 ゾンヌはそれを聞いた後、家に帰った。

「ただいま」
「おかえりなさい」
 ゾンヌが家に帰ると、一人の女がいた。
「ああ」
「ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も……わた――」
「飯くれ」
「……のりが悪いよ」
 その女性はゾンヌの恋人だが、親に認められず駆け落ちして、二人で生活している。
「のりって言われてもなぁ……ムーンの場合、本気だからなぁ」
「だから良いんじゃない」
「でもな、俺は疲れてるんだよ」
「だったら、ホッコモッ――」
「絶対嫌だ!」
「なんでー?」
「あんなの飲めるか!それに、そんな事してまで疲れを取ろうとは思わねえよ!」
「……ひどい」
 ムーンは、涙目になっている。
「うっ……すっ、すまん。俺が悪かった」
「分かったんなら、これを飲――」
「それは嫌だ!」
 ムーンが湯飲みを渡そうとするが、断られる。
「……ひどい、ひどすぎるよぉ―――!!」
 ムーンは、わざと大声を上げた。
「頼むから、静かにしてくれ!近所に迷惑だ」
「……」
 ムーンは、何かを訴えるような目でゾンヌを見ている。
「うっ」
(弱いんだよなぁー。ムーンの泣き顔には)
「………」
「……分かったよ。相手はしてやるが、それは飲まんぞ!」
「そう、残念。…………折角ベナウィ様から頂いたお茶だったのに」
 そう言いながら、ムーンは茶を啜った。
「…………ちくしょう。謀られた」
(第一、いつベナウィ様が来てたんだ?あの人も謎が多いな)
 その夜、結局ゾンヌはムーンを抱いた。
 しかし、これがゾンヌとムーンの日常だった。

「おい、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です!」
「そうか、なんかいつもより腕が落ちてないか?」
「そうですか?」
 ゾンヌは言われて考えたが、そんな事は無いと思った。
「動きが鈍いし、剣の振りも遅い」
「……」
「調子でも悪いのか?」
「………いえ!平気です!」
「そうか、ならいい」
 オボロは、そのままどこかに行ってしまった。多分、つまみ食いに言ったのだろう。
「……………まずいな」
 ゾンヌは、一人になった後、そう呟いた。

「おかえり――!」
「……」
「?……どうかしたの?」
「……いや、なんでも無い」
「うそ、ゾンヌの嘘は分かりやすいよ」
「なんでもないぞ!」
 ゾンヌは少し声を大きくして言った。
「ふーん。なら、いいけど……私のあ――」
「来いよ、相手してやる」
「…ほんと?!」
「ああ、気が変わらないうちに来いよ」
「うん、分かった」
 そして、ゾンヌはその日もムーンを抱いた。

「はぁぁぁぁっ!」
「そうだ!そのまま斬れ!」
「だぁりゃあぁぁぁ!」
 だが、オボロはあと一歩と言うところで、押し返した。
 カン、キン、キィーン!
「くぅっ!」
「まだ駄目だな。しかし、いい腕になってきたな」
「本当ですか?!」
「ああ、本当だ」
「やったぜ!」
「がんばれよ」
「はい!」
 オボロは、いつものようにどこかに行ってしまった。
「……」
「いい腕・・・・ですか」
「!」
 その時ゾンヌに話し掛けたのは、バグネイでも、ザンクでもなく、ベナウィだった。
「ベナウィ様!」
「貴方に話があってきました。・・・・貴方の剣では、直ぐに死にますよ」
 ベナウィは本当のことをさらりと言う。
「……」
「私が少し、稽古をつけてあげます」
「いえ、結構です!」
「何故ですか?そのままだと、かならす直ぐに死にますよ」
「俺は…いえ、自分は、自分は、オボロ隊長に憧れているからです!」
「そのオボロも、死ぬかもしれませんよ」
「構いません!自分は、オボロ隊長のように生きられたらいいと思ってます」
「………そうですか。無理にやらせるわけにはいきませんね。なら、私はこれで」
「すみません!ですが、自分は……オボロ隊長以外に習ってはいけないんです!」
「理由は、ありますか?」
「ありますが言えません!」
「……なら、ますます私には、言う事がありません。ですが、命を大事にしない者は、後に、勇敢と言われるか、無謀と言われるかのどちらかです」
「……例え、無謀と言われても、構いません」
「・・・・・・・・」
「自分は、戦場で死ねれば、本望です!」
「・・・・・・・・本当にそう思っているのですか?」
「はい!」
「……構えなさい!」
「はっ?」
 ドガッ!
 ベナウィは、素手でゾンヌを殴った。
「ガハッ!」
 ゾンヌは、殆ど防御できずに吹っ飛ばされた。
「……」
「クッ!・・・・ベナウィ様。一体何を?」
「今、私が殺そうと思っていたら、貴方は死んでいました」
「……」
「貴方がどう考えているかは私には分かりませんが、死んでしまったらそこで終りなのです」
 そして、そのままベナウィは去っていった。
「・・・・・・・・」
 ゾンヌは、そのまま横になっていた。
「おーい、ゾンヌー!」
 後ろからバグネイの声がする。
「!・・・・見てたのか?」
「…ああ、見ていた」
 少し後ろにザンクも居た。
「隊長と何をやっていたんだ?」
「ちょっと、話をな」
「……そうか。まあ、お前はそう言う奴だよな」
 バグネイは手を差し出し、ゾンヌは掴まって立ち上がった。

「あ・な・たー!今日は何にしますぅ?ご飯?お風呂?それとも、わ・た・し?」
「……」
「?……どうかし、んぅ!」
 ゾンヌは、ムーンに軽く口付けをした。
「・・・・・・・・」
 そして、少しして止めた。
「……」
「どうしたの?一体」
「ムーンに大事な話がある」
「……何?」
「俺が死んだら、俺が死んだ――」
「いや!聞きたくない!」
「ムーン」
「そんなの、聞きたくないよ!」
「・・・・・・・・」
「そうか……そうだな、ごめんな、こんなこと言って」
「いいよ。でも、もう言わないでね」
「ああ」
 そして、いつもの様に夜が更けていった。

『敵襲―――!!』
「!」
 ゾンヌは、オボロが居ないので一人稽古をしていた時にそれを聞いた。
(……ついにか)
「おーい、ゾンヌ!」
 バグネイと、その後ろにザンクいて、ゾンヌの方に走ってくる。
「行くぜ!」
「「応っ!」」

 その時の戦いは、テオロ達の犠牲で何とか助かったが、代償もでかかった。
「おい、聞いたか?」
「何をだ?」
「なんでも、皇の知り合いが死んだらしいぞ」
「知ってる」
「そうか」
 今一番の噂は、クッチャ・ケッチャの侵攻と、皇の知り合いの、テオロが死んだことだった。
「……そろそろか」
 ゾンヌは、誰に言うわけでもなく呟いた。
「んっ。なんか言ったか?」
「いや、なんでも無い」

「おかえりなさ――」
「ムーン」
「?」
「大事な話がある」
「前の事だったら聞きたくないよ!」
 ムーンはそう言うと、ゾンヌに抱きついた。
「……」
 思い切り抱きついて離れようとしない。
「……ムーン、よく聞け」
「いやっ!」
「ムーン」
「いやっ!!」
「ムーン!」
「いやったらい――」
 ゾンヌは、ムーンに口付けをした。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
 そして、ゾンヌはムーンを担いで布団まで連れて行き、優しく下ろした。
「・・・・・・・・」
「ムーンいいか、よく聞いておけ。これから、また戦争が始まる」
「!」
 この反応を見ると、ムーンはまだ知らなかったようだ。
「だからな、俺が死んだ時、お前は一人になる。だが、俺だって死にたい訳じゃない」
「……」
 ムーンは黙って聞いていた。
「だから俺が死んだ後、お前が一人にならないように、俺が生きていた証を残したい」
「……つまり、どういう事?」
「つまりだ、俺の子供を育ててくれ」
「!」
 ムーンは、今の言葉にかなり驚いたようだ。
「実を言うと、俺はもうあまり長くない」
「!」
 次々にゾンヌが重大な事を言うので、ムーンは泣いてしまった。
「うっ…うぅ……ううぅ」
「だがな、俺は自暴自棄になってる訳じゃない。俺だってお前とずっと一緒にいたい」
「……」
「俺は病魔と戦って、今まで生きてきた。そして、俺はオボロ様に出会った。オボロ様の妹君も、俺と同じように重い病と戦っている。だから、そんな人の部下になれて、本当に良かったと思っている」
 ムーンは、泣くのを必死に堪えて喋った。
「だったら、いつ最後になるのか分からないなら……私を愛して!最後まで愛して!」
「……ムーン」
「最後まで私の事だけを見ていて!私だけを愛して!」
「!」
 普段のムーンとは明らかに違っていた。
 だから、ゾンヌもちゃんとそれなりの対応をした。
「だがな、お前の…ムーンの事だけを見ているのは無理だ。だが、俺が好きなのはムーンだけだ」
「本当?」
「当たり前だ!」
 そして、ゾンヌはそのままムーンを抱いた。

 コトが終わった後、ムーンが歌を歌った。
「……」
「あなたに捧げた私の思い、傷ついても、意味が無くても構わない。だから私を忘れないで、いつまでも、いつまでも。例えこれが夢だとしても、もう過ぎている事だったとしても、私は必ず憶えてる。いつまでも、いつまでも。だから安らかに、眠って、安らかに、永久(とわ)に。例え時が止まったとしても、例え何があったとしても、私があなたのことを覚えているから、いつまでも、いつまでも・・・・・・・・」

「……何の歌だ?」
「子守唄だよ」
「……ひどくないか?」
「なんで?」
「だって、そのあなたってのはそいつに全てを託して……そうか、今の俺と同じか」
「そうだよ」
「・・・・・・・・しかし、子守唄ってのは子供に聞かせるもんだろ?」
「そうだけど、私は好きだよ。勿論、他の子守唄も好きだけどね」
「あの、エルルゥ様が歌っていたと言うやつか?」
「何か言った?」
「いや、別に」
 さっき、他の人を見ないでって言ってたから、聞こえるとまずいと思い、誤魔化した。
「この歌はね、魂の子守唄(ユカウラ)って言うのが本当なんだっ…たかなぁ?それとも、そういう風に言われているだけかなぁ?」
「言われてるんなら、それが名前だろ」
「そうだね」
 しかし、ムーンはその歌の本当の意味を知っていた。それは、愛しき者に捧ぐ子守唄だ。だから、ゾンヌのために歌った。
 そんな話をしながら、その夜も更けていった。

 そして、遂にクッチャ・ケッチャに進撃を開始したが、トウカと言うエヴェンクルガの女によって、思うように上手くいかず、トゥスクル兵は、焦っていた。
「おい、俺達はいつまで探せばいいんだ?」
 ゾンヌの周りには仲間が一人も居ない。
 全員先に、逝ってしまった。
 バグネイとザンクは別部隊なので、生死すら不明だ。
「ふぅ」
 ゾンヌが居る辺りは、見晴らしが良く、絶好の攻撃位置なのだ。
(……近くに…いる!)
 ゾンヌは近くの気配に気付き、剣を二本抜いて構えた。
「俺は、オボロ隊長と同じ二刀流で、火神なんだ。そんじょそこらの奴なら負けん!」
 その言葉を待っていたように、クッチャ・ケッチャ兵が地中から出てくる。
「へっ、上等!」
 そして、ゾンヌは一人だけで全員を相手にした。

「はぁ、はぁ、はぁ」
(さすがに、やばいか)
 ゾンヌは確かに強かった。だが、数があまりにも多すぎてだんだん押されていく。
「グゥ!」
 ゾンヌの姿は、全身血まみれで、普通の者なら立っているのが不思議なくらい、出血していた。
「まだだぁ!」
 左右から来る敵を同時に串刺しにし、更にそのまま前後の敵も一緒に切った。
「ぐわぁ!」「うおぉ!」
「まずいぞ、トウカ様はまだか?」
(トウカ!あの、エヴェンクルガの女か)
「・・・・ぁぁぁあああああ!」
 遠くから馬が二匹やってきて、敵の方に突っ込んでいった。しかし、騎乗者は、飛び降りて、ゾンヌの側まで来た。
「!…お前ら!」
「何やってんだよ!」
「私達は、死ぬときは一緒でしょうが!」
 側に来たのは、バグネイとザンクだった。
「ふっ・・・・そう、だったな」
 ゾンヌは剣を構えて、突っ込んでいった。
「いくぜ!」
『応ッ!!』

 そして、二人が来てからも敵の攻撃が止む事は無く、三人とも瀕死だった。
『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ』
「かかれー!」
「ちくしょう、何人居るんだ!」
 バグネイがそう言うのも無理がない。なぜなら、さっき居た場所は死体だらけなのに、まだかなりの数が居るのだ。と言うよりも、辺り一面死体の山と、血の海しかない状態になっていた。
 勿論、三人とも血まみれの状態だ。
 そして、バグネイが剛剣を振り回した後だった。
「がっ!」
『!…バグネイ!』
 バグネイが近くの槍兵に刺され、倒れてしまった。
「くっ!」
「敵は後二人だ!叩き潰せ!」
「くっ、バグネイ、すまん」
「……私が隙を作ります。ゾンヌはその隙に逃げて――」
「それならお前が逃げろ。俺はここで死ぬ!」
「……なら、三人で仲良く逝きましょう」
 
 そして、その数分後。
「がはっ!」
「ザンク!」
「すっ、すみません。後は、頼みます」
 ザンクも逝ってしまった。
「くっ、ちくしょう!」
 ゾンヌは斬り続けたが、もう剣は二本ともとっくに折れており、突きなどで凌いでいたが、流石に限界だった。
「まだだ!」
 ゾンヌは剣を相手に投げつけると、バグネイの剛剣と、ザンクの槍を持って、戦い続けた。

「ばけものがぁ!」
「なめんな!」
 ゾンヌは剛剣と槍で戦っていたが、両方とも壊れてしまい、死体の持っている剣を二本拾って戦い続けている。
「いい剣だ!」
 さっきの剣は、相手の武器の上から斬ると壊れたが、これは壊れない。
 だが、疲れが溜まりすぎて、攻撃を受けてしまった。
「ぐぅ!」
 その所為で、左目が使えなくなった。
「まだ右目がある!」
 もはや鬼人の如く戦い続けているので、相手の中には、逃げ出す者もいる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぎゃぐわぐぎゃぁぁ!!」 
 一人に対して連続攻撃を入れても、この剣は折れなかった。
 それを何度もやっている。

 そんな時だった。
(力が欲しいのか?)
「?!」
 ザンクの頭に声が響いてきた。
(力が欲しいのなら望むがいい。だが、お前の全てを捧げてもらうがな)
「誰だ?!」
(大神、と人は呼んでいる)
「ウィツアルネミテア!・・・・・・・・ふん、いらねえよ!俺は、俺は精一杯生きている!だから、これで充分だ!」
(・・・・そうか、ならばいい)
 その後、声はしなかった。

「火神をなめんな!俺は火達磨になっても戦い続けるぞ!」
 火神という言葉が効いたのだろう、大分敵兵が逃げていった。
 それに、ゾンヌの体は既に燃えていた。
(このままなら・・・・なんとか――)
「おお!トウカ様!」
「何?!」
「某が名はトウカ・・・・お主が、ここまで一人で戦ったのか?」
「ああ、そうだ!」
 ゾンヌがそう言いながらも、体は燃え続けている。
「ざっと数えても四桁はいるだろう」
「だからなんだ?!」
「死ぬときぐらい、名のあるものに倒される方が良いだろう」
 トウカはそう言うと、刀を抜き構えた。
「名は?」
「ゾンヌ!」
「……憶えて置く」
「ぬかせ!」
 そのまま、ゾンヌはトウカに突っ込んで行く。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 そして、ゾンヌはオボロに教わった俊足の斬撃でトウカを斬った。斬ったはずだが、手ごたえが無い。
「?!」
「腕のせいではない。剣が…剣が限界だったんた」
「がはぁ!」
「・・・・・・・・あれでも生きているとは」
「お、俺は……俺っは――」
 そして、ゾンヌの最後は誇り高いものだった。
「行くぞ」
「はっ!」
 クッチャ・ケッチャ兵は、トウカの一言でその場を後にした。

「すまん、ムーン……最後に・・・・・・・・最後にムーンに会いたかったぞ」
(オボロ様、俺は、ユズハ様とオボロ様・・・・そして、ムーンの幸せを常世で祈ってます。)
 クッチャ・ケッチャ兵が退いた少し後、ゾンヌも完全に逝ってしまった。

「くそっ!」
 オボロがその場所に来たのは、それから更に少しした後だった。
「なんでだ!なんでこうなる!俺らが何をした!」
 ゾンヌとバグネイを発見した。だが、ザンクの死体は無かった。
 そして、オボロがゾンヌの死に顔を見ていた時。
「ゾンヌは・・・・最後まで立派に・・・・・・・・あのトウカとも戦いました」
「!」
 オボロが声のした方を向くと、ザンクが立っていた。
 しかし、いつ死んでもおかしくない状態だった。
「お前?」
「なんとか、最後に言い残す事だけは出来ましたが、もう、無理のようです。元々、刺されればすぐに死ぬのに、私は奇跡的にも・・・・言い残すことだけ・・・・出来る状態でした」
「おいっ!」
 そして、遂にザンクも逝った。

 その後、ムーンはずっと泣いていた。だが、自分に子供が出来たと知ると、泣くのを止め精一杯生きる事にした。

 オボロ達は後日判ったことだが、ゾンヌはユズハと同じで、重い病気にかかっていたにも関わらず、あんな事が出来たと言う。だから、親に反対され駆け落ちしたのだと言う。
 その時ムーンは、ゾンヌの体の事は聞いていなかった。

「・・・・・・・・と言うことだ」
「それでは、某が倒したあの漢が、部下だったと言うことで――」
「そうだ…が、別に恨んではいない。初めこの話を聞いた時は恨んでいたが、今ではもう良い事だ」
「・・・・」
「逢って見るか?」
「えっ?」
「ムーンにだ」
「あっ!」

 そして、オボロとハクオロとトウカはムーンの家に行った。
 その家からは、子守唄が聞こえてきた。
「あっオボロ様!」
「ちょっと逢わせたい奴がいて、連れてきた」
「どなたです?」
「某が名はトウカ・・・・・・・・ゾンヌ殿を・・・・殺した者だ」
「!」
「某は騙されていたにも拘らず、あんな凄い漢を殺してしまった事を悔や――」
「ゾンヌは、ゾンヌは最後、なんと言ってました」
 ムーンは泣きそうになりながらも、トウカに訊ねた。
「それはっ・・・・」
「幸せだったといってたぞ」
 そう言ったのは、オボロだった。
「・・・・そう、ですか」
 ムーンはそう言うと泣き出してしまった。
「・・・・帰るか」
 ハクオロがそう言い、三人は帰った。
 ムーンは、しばらく泣き続けていたが、泣き止んだ後は、いつもどおりの生活に戻った。
 ゾンヌは最後までムーンの事を想い、そしてオボロ達の事を心配していた。

 物語の裏には、こういう話もあるものだ。
                                (終)



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