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間違われたもの―禍日神(ヌグィソムカミ)―


「あそぼー」
 アルルゥがトウカの部屋にやってきた時の事だった。
「ええ、いいですよ」
「んっ」
 アルルゥは、トウカに近づきある物を発見する。
「?……これ、なに?」
 アルルゥが指差した物は、トウカの服の内側にあった、木彫りの古ぼけた人形だった。
「ああ、この子は、いえ、それは某にとって、とても大事なものですよ」
「ふーん」
 アルルゥは、その人形から目を離さない。
「あっ!……こっ、これを見たいのですか?」
 以前オボロに壊されて以来(本来はハクオロだが)、誰にも触らせない、いや、元々触らせたくないから、戸惑っているのだろう。
「うん」
 トウカは少し躊躇ったが、聖上の御息女なので、断れなかった。
「どっ、…どうぞ」
「んっ」
 アルルゥはそれを少し見ていた。そしてそのまま動かなかった。
「……」
 トウカは、壊されないか心配で、動くに動けなかった。端から見ていると、トウカがアルルゥを睨みつけているような状態だった。

 そして、その状態がしばらく続いていた時。
「何をしているんだ?」
「せっ、聖上!」
 トウカは、アルルゥを睨んでいたために、ハクオロが話し掛けるまで、気付かなかった。
 ハクオロの顔には、仮面は無かった。だが、以前と同じ雰囲気だった。
「おとーさん」
 アルルゥが人形を放り投げ、ハクオロに抱きついた。
「おっと」
「あぁぁー!」
 トウカは、投げられた人形を、床の寸前で掴んでいた。
「はぁ、はぁっ」
「どうした?」
 そんなトウカを見て、ハクオロが声をかけた。
「いっ、いえ。なんでもありませぬ」
「そうか?」
「はい!」
「なら、いいが……」
 トウカは、これ以上危ない目に逢わない様に、直ぐに懐にしまった。
「ふぅ」
「……」
 そんな様子を、ハクオロは黙ってみていたが、前にも見たような気がしたので、トウカに訊いてみた。
「トウカ、それはあの時の人形か?」
「はっ、はい。そうであります」
 トウカは何故か慌てた様子で、そう答えた。
「なるほど」
 ハクオロは、顔に手をやり少し考えた。
(以前のような目にあったら敵わないからか…なら)
「じゃあ、私たちはこれで」
「はっ!」
 そうして出て行こうと思い、アルルゥを降ろした時だった。
「?」
 トウカは、アルルゥが何か、自分の方を見ているので気になった。
「あの、なにか?」
「なんでもない」
 そういって、トウカに飛びついた。
「あっ!」
 ハクオロが止めようとした時には、もう遅かった。
「わわっと」
 急な事だったので、トウカは足を滑らせ、床に叩きつけられた。
 バキィ。
「……」「……」「……」
 三人とも、何も言わなかった。
 正確に言うと、アルルゥは何も言わなかっただけだが、ハクオロと、トウカは、何も言えなかった。
「……じゃ」
 アルルゥは立ち上がると、そのまま部屋を出て行った。
「……」「……」
 そして、残った二人はしばらくそのままだった。
「……」
「……なあ、トウカ。…大丈夫か?」
 だが、トウカは反応しなかった。
「トウカ?」
「……」
 ハクオロが心配して、近づいた時。
「キィィィ―――ッ!」
「!」
 ハクオロは、身の危険を感じて逃げようとして、部屋の出口を見たときだった。
「なにしてるんだ?」
 オボロが奇声を聞きつけ、見に来たのだ。
「何をしているか知らないが、そんなに大声を上げると、あの子が……って、なんだ?!」
 トウカがいきなりオボロに向かってきた。
「クケェ―――――――ッ!」
「うわっ」
 そして、オボロはトウカにボコボコに殴られ、馬乗りで更に叩かれ、気を失った。
「ガハッ」
 だが、気を失ったにも関わらず、トウカは首を掴んで、前後に思い切り振った。
「ガッ、ハッ、ガッ、フゥッ」
 オボロはそのまま息を失った。
「……すまんオボロ。お前には本当に世話をかけるな」
 ハクオロはそう小声で言いながら、その光景を、眺めていた。
「キィィィィィー!!」

「どうしたんですか?」
「んっ?ああ、オボロか、名誉の負傷だ」
「はっ?」
「名誉の負傷だ」
 ハクオロは、アルルゥは自分の子供だから、殴るに殴れず、側に来たオボロに八つ当たりした、などとは、エルルゥに言えなかった。
「はぁ、以前にもそんな事がありましたよね」
「……名誉の負傷だ」
 そんな事を部屋で言っている時だった。
「聖上。某にお暇をくだされ」
「んっ?ああ。構わんよ」
 トウカの気迫から少しでも開放されるし、人形を直す時間にもなるからいいだろうと思って、直ぐに許可を出した。
「ありがたき、幸せ」
「気にするな」
 本来、気にするべきなのは自分の方なのだが、そんな事言える訳が無いので、そういう事にしておいた。
「では、某はこれにて」
 そしてそのまま出て行った。
「……すまん、オボロ。お前の犠牲、無駄にはしないぞ」
 そう言いながらも、我が子の世話をするチャンスが回って来たので、喜んでもいた。

「本当ですか?」
「ああっ」
「よかった」
 トウカは以前の男、人形師タラチにまた会いに行って、そう言われた。
「代金は以前と同じでいいぞ」
「感謝します」
「しかしお前、大事にすると、約束していただろ」
「複雑な事情がありまして」
「ふんっ、まあいい。そこで待ってろ」
「はっ!」

 そして、一刻ほどした後。
「出来たぞ」
「おおっ!」
 トウカの人形がまた、元に戻っていた。
「もう、来るなよ」
「かたじけない」
「ふんっ、じゃあな」
「はっ、それでは某はここで」
 そう言って、トウカはその場を後にした。
「ふんっ、しかし、どうしたらあんなに大事なものを、壊せるんだ?」
 タラチは、トウカが行った後、そう呟いていた。

「ふう。この子も直ったことだし、少しこの辺でも見ていこうか」
 トウカが辺りを見ながら歩いていると。
「安いよ、どうだいお嬢さん」
「えっ?某の事ですか?」
「そうだよ」
「某がお嬢さん。某がお嬢さん。それがしが……」
「あのっ」
「あっ、ああ。是非とも貰いまする」
 そう言って懐に手を伸ばすが、財布が見当たらない。
「あれっ?」
 財布を捜しているうち、無意識的に、側の荷台に人形を乗せていた。
「ああ、あった。それではこれで」
「まいどー」
「速荷のお通りだ―」
 トウカの人形がおいてあった荷台は、そのまま出て行った。
「……」
 速荷なので、次の目的地までは、止まらない。
「あ゛――――――っ!」
 勿論トウカは、その荷台を追って行こうとした。
「お嬢さん」
「?」
「御代、足りてないよ」
「それはすまぬ。では、これで」
 トウカは、足りてない分を払うと、全力で追いかけていった。

「頭!」
「なんだ?」
「なんかがこっちにやってきます」
「あぁっ?なにかって、なんだ?」
「おっ、女かと」
「何!」
「ゲエェェェェエエエエエエエエ―――――!!」
 後ろを見ると、確かに女が追ってくる。
「……まさか、禍日神じゃないのか?」
 そうは言うが、あまり慌てた様子は無い。
「確か、かなり前の話だと、人形をやれば逃げられるとかって、言ってませんでしたっけ」
「そうだ。そのために用意してあったんだ」
 速荷の頭は、懐から綺麗な人形を取り出すと、それをそのまま後ろに投げた。
 トウカはその人形を手に取り、眺めるが。
「違う!これじゃない」
 その人形を投げ捨て。
「チィーガァーウゥゥゥゥゥ―――――!!」
「頭!まだ追ってきやすぜ!」
「なにぃ?!」
「ヲイデゲェェェェェェ―――――!!」
「助けてくれ――――!」
 速荷の連中は、荷をどんどん捨てていく。だが、トウカはそれをどんどん避けて、迫っていく。
「マァテェェェェ――――――ェェェエエエ!!」
「もう何もねえよ――!」
 荷台を確認するが、何も無かった。
「嘘をつくなぁぁぁぁ―――――!」
「嘘じゃねえよ」
「おい、まさか、俺らの命じゃ……」
「……助けてくれー―――!」
 そう言いながら、荷台を良く見ると、古ぼけた人形が一つ、置いてあった。
「なっ、なんで?」
「いいから投げろ!」
「へいっ」
 その人形は、トウカの方に投げられ、トウカは確認すると、走るのを止めた。
「たっ、助かった」
 そして、そのまま速荷は逃げていった。

「ハクオロさん、知ってます?」
「んっ?何をだ?」
「また以前の禍日神が出たそうですよ」
「ほう」
「なんでも、以前と違って、ただ人形を投げただけでは駄目なんだそうですよ」
「ほーう」
「いつも間にかある古ぼけた人形を見つけて、投げないと駄目なんだそうですよ」
「……なんだ、それ」
「何でも、知恵試しをされるらしくって、気付かなければ、食べられてしまうそうですよ」
「ふーん」
 ハクオロは、トウカの事を思い出した。
「速荷に、追いつければなぁ」

 その頃トウカは、自室で寝込んでいた。
「ううっ、う」
 手で宙を探りながら。
「チガウゥゥゥ―――――!!」
 と、叫んでいた。

 ついでに、オボロも寝込んでいた。
「うう、俺が…一体、何を…」



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