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『その手の先に〜番外編(一)〜』
[カルラが例の茶を持って廊下を歩いていく。
一番最初に目指した場所、それは――――]
(さて。そろそろ休憩の時間ですわね。この辺で・・・いいのですかしら?)
城近くの広場。そこは今、兵士の訓練所と化している場所だ。
・・・そこに今、彼女が獲物と決めた彼等はいた。
・・・この後襲い来る、不幸を知ることなく・・・
「ふぅ・・・」
「結構今日はキツかったな・・・」
「・・・そうですの?それは丁度よかったですわ」
「「!!」」
訓練が終わり、身体を休める為、木陰に入った彼等に、カルラは声をかけた。
「――――」
「おめぇは・・・」
「ごきげんよう」
二人は一応彼女の方を見るが、あまりいい顔はしない。
・・・それはそうだ。
オボロに、クロウ。
彼等は、何度となく彼女の悪戯の被害にあっている。
食事時の争いでも、連敗記録を更新中だ。
いきなり現れた彼女をいぶかしむのも、まぁ無理の無い事だろう。
そして、それは正しい行動だ。
「・・・なんの用だ?」
オボロが、声を低くして聞く。
「お茶を入れたから持ってきましたの」
その言葉を聞いて、より怪訝な顔つきになる二人。
―――まぁ、それも当然の行動か。
絶対、何かあると、いつものことながら彼等は直感したのだ。
「エルルゥにもこの前教えた茶なのですけど・・・
元は剣奴に伝わる茶で、闘いの前などに飲むと、体力が持ちましてよ」
説明するカルラ。・・・多少の脚色を加えて。
エルルゥの名を出した事で、いささか二人は警戒を解く。
・・・たしかに、彼女に教えた、というのは嘘ではない。
ただ、彼女は「そうですか・・・」と、額に汗を浮かべながら相槌をうっていただけだ。
決して作ろうなどという気は起こすまい。
「・・・・・・飲んでみるか?」
「・・・そんじゃ、まぁ・・・」
そうとも知らず、少ししてから二人は湯飲みを手にとった。
・・・それが、彼等の、運の尽きだった。
実際、訓練の後だ。
身体も火照って、汗でたっぷり濡れている。
なにより、何も飲んでいなかったから喉がひどく渇いていた。
喉が潤せれば、ある程度味がひどくても構わないと判断したのである。
・・・だが、ソレは並の味ではなかったのだ。
コクン・・・
「・・・グホッ!?」「・・ブグッ!?」
一口ソレをすすった瞬間、二人が揃って声を上げ、吹き出す。
「・・・どうしましたの?」
わざとらしく聞くカルラ。
「どうした、・・・ってこんなモノ飲めるか!なんだこれは!?」
「そういえば・・・まぁ、味は良くはなかったですわね」
味の事はあっさり認める。
「でも、体力、精力をつけるのにはよく効きますのよ?」
「だからってなぁ・・・何入ってんだ?コレ」
湯飲みの中身を覗き込み尋ねるクロウ。
「ヘラペッタ、ホッコモッコに、その他もろもろ・・・あと、愛の隠し味を少々、ですわ」
「愛の隠し味って・・・なんだ、そりゃ」
「ひ・み・つですわ」
質問に答えると、カルラは、彼に向けて片目を閉じてみせる。
・・・それに何を想像したのだろうか。クロウの顔が、赤くなった。
「・・・とにかく、こんなもの飲めん!持って帰れ」
「あら、効力については嘘は無いですのよ?薬でも飲む気で飲めば・・・」
「それでもいらん!」
ただでさえ機嫌が悪かったオボロは、そうカルラにむけて怒鳴った。
「・・・情けないですわね・・・」
「何・・・・?」
「少し位不味いといって、こんなに良い物を・・・
この國の漢を少し・・・見損ないましたわ」
「な・・・んだと!ふざけるな、この位・・・!」
溜息交じりに、放たれたこの挑発に、
オボロは激昂し湯飲みをあおる。
ごくっ・・・ごくっ・・・ごく・・・・
「ぐ・・・ぅっぅ・・・ど、どうだ!」
「お見事ですわ」
一気に、中味が半分程に減る。
・・・内心、呆れながらも、カルラは拍手を贈った。
そして。
「・・・クロウさん」
「・・・!?な、なんだ?」
振り向いて、次の標的へと、狙いを定める。
「・・・貴方は何故、飲まないのですの?」
「ぐっ・・・」
中の液体とにらみつけるクロウ。
しかし、それに口をつけることは、やはりためらわれた。
・・・だが、そこに。
「・・・残念ですわ。戦の腕は貴方の方がオボロより上だったと思ってましたのに・・・
この分ですと、抜かれてしまう日も、そう遠くないかもしれませんわね」
「ぐ・・・っ!なめんな、これ位・・・!」
また彼も、彼女の挑発にのせられる。
ぐびっ、ぐびぐびぐび・・・・
「お、おぅっぷ・・・ど、どうでぃ・・・!」
「・・・さすがですわ」
また彼も、オボロと同じく半分程量を減らした。
再び、彼女はそれにたいして拍手する。
(ホントにこの二人は・・からかうと面白いですわね・・・
まぁ、今日はこのへんにして、そろそろ次に行きますか)
カルラはもう、その頃には引き上げる事を考えていた。
「後もう少しで二人共空にできますわね。ソレ」
「ま、まだ飲めというのか?」
「勘弁してくれ・・・」
「やりかけて物事を中座する事ほど、漢らしくないことはありませんわよ」
二人の悲痛な訴えも、にべ無く却下する。
・・・何となく、その様は誰かに似ていた。
「「ぐっ・・・・」」
そして、二人は諦めたように再びソレを喉へと流し込む。
それを横目で見ながら、カルラはそっと、その場所を離れた。
* * * * * *
「さて、と。そろそろですわね」
再び城へと、たどりついた頃。
「「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
悲鳴が上がる。
・・・誰のものかは、言うまでもない。
・・・『愛の隠し味』とは。
ハクオロのだけに入れられていたものだ。
その他の物には、代わりにからしとわさびが入っていた。
溶けなかったので、下に沈んでいたソレが・・・
今、効果を発揮したらしい。
こうして、二人は彼女の茶の餌食になったのだった・・・
『その手の先に〜番外編(二)〜』
オボロ達を訓練場の露としたカルラは、気を良くして、次の標的二人を捜していた。
そして、とうとうその片方を見つける・・・
「ベナウィ。これ・・・私が煎れましたの。皇様と二人で、如何?」
廊下でばったり出会った彼に、盆を差し出す。
「・・・せっかくですが、お断りします」
だが、彼は即座に拒否した。
「・・・卑しい剣奴が煎れた茶など、飲めませんの?」
「・・・そうと取ってもらっても結構ですが・・・」
カルラの問いを涼しい顔で受け流すと・・・
背を向け、一言、付け加える。
「その茶からは、以前知り合いの行商人に勧められたモノの匂いが、
幾つかしますので、ね」
「・・・・・・・・・」
「あまり過激な悪戯はしないほうが身のためですよ。
茶は、私が代わりに聖上に煎れて差し上げますから」
そう言い残すと、ベナウィは静かに廊下を歩いて行った・・・
(・・・なにか、ひどい敗北感を感じたのは・・・気のせい、ですわよ、ね・・・)
『その手の先に〜番外編(三)〜』
(ユズハが例の茶飲んだ後の会話)
「…カルラさま…」
「…え?な、なんですの?」
いけない。予想外の反応に、戸惑ってしまいましたわ…
「あの…よろしければ、このお茶の…材料を教えていただけませんか…?」
「それ、は…」
言っていいものでしょうか。
ユズハ相手だと、何かためらわれますわね…
オボロに怒られそうな気が、ってそれはどうでもいいことですけど…
…う〜ん…あ、そうですわ。
「エルルゥも知ってますから、あのコに聞いた方がいいですわよ」
「エルルゥさまに…?」
「ええ。きっと、その方が分量も正確で、いいと思いますわ」
「そうですか…」
「そうそう、作り方がわかったら、オボロにもつくってあげてはいかがかしら?」
「お兄様にも…?」
「そう。泣いて喜びますわ」
まぁ、泣く、といっても別の意味で、ですけど。
「わかりました…ありがとうございます…」
(というわけで、他にも二度、被害にあった者はいたのだった。
エルルゥは恥ずかしがって大混乱を起こす。
オボロは、ユズハの作った茶なら、とおかわりをしていた…不味さで倒れるまで)
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