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『ナ・トゥンク編番外』
それは、ハクオロ達が城を抜け出し、ナ・トゥンクへと向かっていた頃の事。
場所は変わって、ここはトゥスクル城。
「ふぅ…」
ベナウィは、溜息をついた。
…彼は、溜息をつくことには慣れているはずだった。
昔の皇が皇であっただけに。
しかし。
こんな理由で、溜息をつく羽目になるとは、
彼自身、予想もつかなかったに違いない。
それは…
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!ユズハ――――――――!!」
その時、丁度その原因の一つが書斎に入って来た。
「…やかましいですよ。少しは落着きなさい」
「これが落着いていられるか!ユズハが、兄者が…
更にはエルルゥ達女が全員連れて行かれたんだぞ!?
おまけに…こんなモノを残していきやがって!」
そう言い、彼――オボロは、一枚の紙切れを投げつけるようによこす。
そこには…
『 妹君は預からせていただきましたわ
カルラ 』
そこにはそれだけが書かれていた。
誤解を招きやすい事この上ない。
…もちろん、わざとそう書いたのだろうが。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁー――!!
だから俺は、あの女は信用できなかったんだ――――!!
ユズハ―――――!!お前に何かあったら…俺は――――!!」
「…クロウ、黙らせなさい」
「へい。…うりゃ!」
「うがっ!?」
ぼくっ!
脳を揺らす。
錯乱していたオボロは、モロにそれを受けた。
…結構、いい所に入ってしまったようだ…
オボロは床に倒れこむ。そして起き上がれず、そのままそこに突っ伏す。
ハクオロが予期していた通り…いや、ある意味オボロの取り乱し方は、それ以上だった。
半狂乱どころではない。
何しろ、朝からずっと叫びながら城中を駆けずり回っていたのだから。
血走った瞳で、目に入るモノ全てを睨みつけながらのオボロの行動は、兵士達の不安を煽った。
しかも、そのような行動を取ったのが、もう一人いるのだから手におえない。
「姫様――――――――――――!!!!
何処にいらっしゃるのですかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?
早く出てきて下さらないと…ムントめは…ムントめはぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そう。ここにも。
過剰なまでに取り乱している者がいた。
まぁ、こちらはまだ、気持ちがわからないでも無いが…
街の方にまで飛んで行って、(翼で)そこの上空でこうやって大声で呼びかけ続けていた。
ある意味、行動範囲が広いだけ、オボロよりタチが悪い。
両者のおかげで、すっかり國中に皇達の行方不明事件は知れ渡ろうとしていた。
ドリィ、グラァ等が噂の拡大を阻止する為、動いていたが…
効果は、あまり無いようだ。
「姫様――――――――――――!!姫様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「…クロウ、黙らせなさい」
「へ?い、いいんですかい?」
クロウは驚き、確認するように、絶叫しているムントを指差す。
「かまいません。これ以上叫ぶようなら、さかりのついたネコの方がまだマシです」
「…了解。…せいっ!」
「ごふっ!?」
ごすっ!
再び、脳を揺らす。
ムントはピクリともせず、動かなくなった…
「…一応、息はしてやす」
「ならいいですね。廊下で転び、頭を打ったと言う事にしておきましょう」
ベナウィは淡々と話すだけだった。
「…大将、なんか、機嫌悪くないスか?」
「…そんなことはありませんよ」
「でも、総大将がいなくなったっつうのに、やけに落着いてやすが…
ま、確かに慌ててもどうにもならないんですがね…」
「…ふぅ…」
再度の溜息。
その後、彼は座っている机の引き出しから一枚の紙を引っ張り出した。
「…なんスか、コレ…!?」
差し出されたソレを、目にしたクロウの顔色が変わる。
『 主様は少しの間、借りて行きますわ。
皆さんと一緒に、少しだけ旅に出ます。
捜さなくても結構ですわ。
すぐに戻りますから、
それまで皇様代理は お・ね・が・い しますわ。
カルラ』
オボロへの物と同じく、これもまた、カルラからの手紙であった。
「はぁ…あの女…」
クロウもまた、呆れた様子で溜息をつく。
ベナウィの気持ちが少し、わかった気がして。
「ん…?」
裏にも何かある事に気づき、紙を返す。
「……!?」
そこには…
『ベナウィ・クロウへ』
と、書かれていて。それはいいのだが…
最後の「へ」の後に、彼女のモノだと思われる、唇の形に紅が付いていた…
「……」
「…何を、赤くなっているのです?クロウ」
「え?…おぁ!?」
慌てて、顔をこするクロウ。
「…そんなことをしても顔の色は戻りませんよ」
「…で、でも、何処行ったんですかねぇ?
俺たちも連れてってくれりゃいいモンを…どうせ、どっか近くっスよね」」
…しかし。
慌てて、ごまかすようにそう言った彼へのベナウィの答えは鋭かった。
「…ナ・トゥンクへの道は、言うほど短くはありませんよ」
「!?」
その言葉を聞いて、クロウの顔が険しくなる。
「ナ・トゥンクへ、って…マジですかい!?」
「確証はありません」
あくまでベナウィは、淡々と続ける。
「ですが、聖上の彼の国の反乱軍への急な援助…
それでもまだ彼等が不利だとわかった翌日、彼女と共に旅に出る理由…他に、見当たりますか?」
たしかに、言われて見ればそうだった。
「…で、どうするんですかい?」
「…我々はただ、聖上が戻るまで、各々の役目をこなすしかありません。
まぁ、言いたいことは、その後に言えばいい事です。…たっぷりと、ね。
今回の件は、色々と、断りきれなかった聖上の責任が大きいようですから。」
「……」
クロウ自身には、別段文句などないのだが。
だが、彼には、ベナウィの帰還時の対応(おそらくは説教)と、もう一つ気がかりなことがあった。
「援軍に…出なくていいんですかい?」
その問いに。ベナウィは何を今更、といった感じで答えた。
「…我等の皇が…あんなろくでもない國の者に、負けるなどと思っているのですか?」
そっけなく放たれた言葉。
しかし、その言葉には確かな信頼が込められていた。
…だから。
「行きますよ。クロウ。久しぶりに、國を二人で切り盛りしなければ」
「…ういっす。…行きやしょう、大将!」
クロウは、もうそれ以上の質問はせず、黙ってベナウィの後ろにつき、書斎を出た…
* * * * * * *
…後に残されたのは、ある意味今回一番の被害者である二人。
「う”〜〜〜…ユズ、ハぁ・・・・」
「ひ…姫・・様ぁ……」
…というわけで、まるきり忘れられていた彼等は、
次にベナ・クロが仕事を終え、戻ってくるまで放っておかれたのだった…
(完)
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