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『悪戯珍騒動』

(序章)

「あ〜あ…退屈だな…」

部屋の寝台に転がって。
私は一人、溜息をつく。

入口の扉にはつっかえ棒らしき物がしてあり、
外には、出れない。

「ムントったら。あんなに怒る事無いじゃない…」
横になったまま、呟く。

昨日、例の落書き事件がバレてから。
あの後、私たちはかなり叱られた。

おまけに、今日は、大人しくしているように、
と言われ、部屋から出してもらえてない。
もう少しで、昼になるというのに。

もっとも、その事自体には、そんなに腹は立てていないけど。
…ただ。

「アルちゃんまで叱ったのは…ちょっとね」

ムントにしては珍しいぐらいの怒り様だった。

…私が誘っただけなのに。


(アルちゃん、どうしてるだろう。
  …泣いたり、してないと…いいな。)

それがひどく、気がかりだった。



そこに。

部屋の外から、鈍い衝撃。
棒が弾き飛ばされたらしき音が響く。

「…え?」

慌てて、飛び起きる。

敵襲。そんなわけはないけど。
真っ先に浮かんだのは、そんな言葉だったから。

だけど。

少しして、扉から顔を出したのは、敵どころか…
私がいつも、最高に頼りにしてる…友達、だった。

「アルちゃん…」
「来た。…行こ」

開口一番、アルちゃんは笑顔でそんな事を言う。

「…え?行くって、何処に…?」
「…復讐」
「えぇ!?」

『復讐』って…ムントにだろうか。
いや、そうとしか考えられないけど…

「…しかえし」

私が戸惑っていると、わからなかったと思ったのか、
言い方を変えて言ってくる。

「いや、それはわかるけどね。アルちゃん…」
「…あんな怒る、必要ない。」

私の言葉をさえぎり、すねた顔になってアルちゃんが続けた。

「だから、しかえし、する」

…どうやら、ちょっと、怒ってるみたいだ。
こうなったら、アルちゃん…止められないだろう…


そんな事を考えた時、ふと笑いがこみ上げてきた。
…最初から私に、止める意思などあったのかな?
むしろ…

「そうだね…行こうか」
「ん!」

こうなる事を、望んでたんだよね〜。きっと、私も。

悪戯っぽく微笑みながら、ムックルにまたがり、部屋を出る。

こうして、私達のイタズラ作戦は始まった―――


ムント (一)   

それから少し経った頃。
ムントが部屋に帰ってくる。

「やれやれ。少し、遅くなってしまいましたか。…おや?」

みれば、部屋の扉の傍―――自分が棒を突っかけておいた所―――
そこが、少しえぐれている。

「な、なんですか、これは…ハッ!ひ、姫様は!?」

慌てて、部屋に入るムント。しかし、当然そこにカミュの姿は無い。

「な、なんと言う事だ…これは、もしかして…」

部屋の中を捜してみる。すると、一枚の手紙が目に止まった。

それには…

 『僧正ムントに告ぐ。
  カミュ、ならびにアルルゥ皇女は預かった。
  返して欲しければ、お前一人で、食糧庫まで来い。
  約束を違えれば…この王宮を、重大な危機が襲う事になる。』
                  
                    そう、書いてあった。

犠牲者 第一号


「ん〜。もう、そろそろかな?」

一方、その頃、私は待っていた。
城の窓の前、アルちゃんと二人で。

ここからは、食糧庫がよく見える。
当然、私達が仕掛けた、罠の様子も。

食糧庫の扉。それはすでに半分程開いており、
その上の方には―――お決まりな事に、あるモノが挟まっている。

後は、誰かが扉を開ければ…それの餌食になる、ハズなのだ。

「まだかな…ってそんなすぐには来ないか」
「…来た」
「え、どこどこ?」
「あそこ」

アルちゃんが指差す。そこには…

「あれって…オボロ兄様じゃない。しかも…食糧庫に向かってるよ!」
「…開けちゃう」
「だ、だめ〜!オボロ兄様〜!」

しかし、その叫びが、兄様に届くことは、無かった。


「ん・・・?少し開いてるじゃないか・・・
 まぁ、いいか。今日は、何をつまむかな……うがっ!?」

 ごいぃ―――――ん・・・

鉄のたらいが、オボロ兄様の無防備な脳天を直撃する。

「か・・・はっ」

 ドサッ・・・

防御する事もできなかった兄様は、ガクリとそのまま崩れ落ちた。

「あちゃ〜・・・」
「・・あ〜」

あれは底の厚いのを選んできて、苦労して取り付けたやつだ。
もろに当たっちゃ、いくら兄様でもああなって当然だよね・・・

「仕方ない。作戦其の二に移ろうか」
「ん」

ムントが来たら、私達の仕業だって、バレちゃいそうだし。
ほんとは、気絶させた後にでも使おうかと思ってたんだけど。
仕方ない。


犠牲者 第二号

「うん、これこれ。」

先程作っておいた特製菓子を持って、食糧庫へと向かう。

盆の上にある、数個の小さな焼き菓子。
一見ただのお菓子だけど、これには仕掛けがしてある。

「ん〜。一個、いい?」
「あ、ダメ!コレ、薬入りだよ」
「・・・薬?」
「うん。この前、エルルゥ姉様が作ったヤツ。
・・・失敗作だったみたいだけどね。」

オボロ兄様が飲んでひっくり返ったらしいけど・・・
まぁ、たべても死にはしないよね。多分・・・

「あ」
「ん?どしたの、アルちゃん」
「クロウ」
「え」

立ち止まって、指差すアルちゃんに従って顔をむければ。
向こうからその巨体が歩いて来るのが見えた。

「お、姫さん達。こんなトコで、何してるんで?」

向こうも私達に気づき、声をかけて来る。

「ムントにコレ、味見してもらおうと思って。」

そう言って、盆の上の菓子を見せる。
・・・嘘では無い。一応。

「へぇ。コレ、姫さん達が作ったんですかい?」
「ま、まぁね」

内心焦りながら、私は言った。
おじ様だったら、こんな時。見破られてるかもしれないけど。

「じゃ、おれが味見しやしょうか?」

クロウさんは全く気づかず、そんな事を言った。

「え・・・で、でも、悪いよ・・・美味しくないと、思うし・・・っ」
「かまいやせんって。・・・どれ」
「あ・・・!!」

 パクリ。

ダメだと言うより早く、クロウさんは焼き菓子を掴み取り、
口の中へと放り込んだ。

 ゴクン・・・

「・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・・ぅグッ」

クロウさんの顔が、青ざめていく。

「け、結構な・・・お手前・・・ふぐぅ!」

 ズッシ〜ン・・・

「ク、クロウさ〜ん!」

ムリに笑顔を浮かべようとしながら、クロウさんはひっくり返ってしまった。

「姫様?何処におわすのですか―――!?」

「マ、マズいよ・・・」

声、聞こえちゃったみたいだ・・・。
ムントらしき足跡が迫ってくるのがわかる。

「仕方ない。アルちゃん、作戦其の三、行くよ!」
「ん」

途中でバレちゃった時のための取って起きだったんだけど・・・
って言うか、これが失敗しちゃったらどうしよう…

犠牲者 第三・第四号

「かみゅち〜」
「何?アルちゃん」
「ん〜。コレ・・・何?」
「これ?あぁ、これね」

手にした札を見る。
姉様(ウルトリィ)の荷物から持ち出してきた物だ。

「これは貼り付けた相手に、幻覚を見せる札なの。
なんでも一番求めているモノが見えるとか言ってたよ」

・・・効果はひどく短いらしいけど。

以前、それを見せてくれた時の姉様の説明をアルちゃんにもする。

「ムントにだって、欲しい物とかあるはずだからね。それが何かわかれば、
 少しは説教かわすネタにできるかと思うよ・・・」

そうは言ったものの、自信はあんまり、無いけどね・・・

アルちゃんにも同じモノを渡してある。
二枚貼れば、多少は効果が長くなるかと思ってのことだ。

そこに・・・

スタスタ・・・ ザッザッ・・・

「「!!」」

足音が聞こえる。
何故か、二つ。

「ど、どうしよう?」
「んん〜・・・」

誰か、呼んで来たのか。
計算外だよ・・・こうなれば仕方ない。

「アルちゃんは向こうの人に。私はこっちから出てきた方に貼るから」
「ん!」

首だけ動かし、指示をだす。
そして、通路の両側に潜み、相手の姿を待った。

スタ、スタスタ・・・ ザッ、ザッザッザッ・・・

足音が、近づく・・・

(今だ!)

「「えいっ!」」

 べチッ!!

「「うわぁ!?」」

「「あ・・・」」

札を貼り付けた瞬間、彼等が声を上げる。

「・・・ドリグラ」

そう、アルちゃんが言うとおり、ドリィさんとグラァさんだった。

「「・・・・・・」」

しかも、もう、幻術にかかってしまっているみたいだ・・・
目がとろんとしている。

 パタパタ・・・

その時。
近くの窓を、一匹の蝶が横切ろうとした。


「「若様・・・」」


「え・・・?」

「「若さまぁっ!!」」

その蝶に何を見たのか。
二人は、ソレへと向かって飛びついていく。

・・・ソレが、窓の外にいるにも、かかわらず。

そして、蝶に触れる前に。
幻術は、解けたらしい・・・

「「え・・・?」」

「「うわぁぁぁぁぁぁ・・・」」

何故か、少しの間、空中で足をバタつかせ。

その後、声を長く引きながら、二人は落下して行った・・・

「・・・あぁ・・・」
「・・・・・・」

アルちゃんは、それを見、何かを思い出そうとしているようだった。

でも、こんなトコにムントが来たら大変だし・・・

仕方なく、私たちは近くにある、部屋に隠れることにした・・・

犠牲者 第五・第六号(一)

「え〜と・・・あれ?」

以前は誰もいなかったその部屋が、今はなんだか整って・・・

「ここ、誰かの部屋になったの?」
「ん」
「へ〜。誰?」
「トウカお姉ちゃん」

アルちゃんに尋ねると、笑顔で答えてくれた。

「あぁ、なるほど。そうだったんだ」

トウカさんとはまだ会ってそれほど経ってないけど・・・
よく、ゆずっちの部屋に来て、色々話を聞かせてくれる。
異国の話は、とても面白くて、ためになることが多い。

(・・・ただ、剣豪モノや武士道がどうたら、
 って話になっちゃうことも、多いんだけど・・・)

それでも、結構好きになれる人だ。
そろそろ私も、「お姉様」と呼んでもいい頃かも知れないなぁ・・・


「姫様〜!何処へ〜!?ムントめはここですぞ〜!」


「げ、もう来た!?」

(っていうか、なんで自分の居場所叫んでるの・・・?)

仕方なく、私達は窓から空を飛んで逃げる事にした。
≪ムックルは普通に部屋からでて、後で合流するように言っておく。≫

部屋に出る前、トウカ姉様に勝手に部屋に入ったことについて、
お詫びを一言かいて、先程の焼き菓子を重り代わりに上に乗せた。
紙が無かったから、例の札の裏に書いたけど・・・
ま、問題無いよね。

「・・・よし。アルちゃん。ひとまず屋根の上逃げよ。
 なんかいい考え、おもいつくまで」
「ん」

そして、私はアルちゃんを抱えて、屋根の上まで飛んで行く・・・

それが、その後起きたある悲劇の元だと、知ることなく・・・

        * * * * * *

「ふぅ・・・今日の稽古も無事に終了・・・」

少しして、訓練を終えたトウカが部屋に入ってくる。

そして、その彼女を、イタズラ好きな風が襲った。

 ビュゥゥゥゥゥ・・・

「うわっ!?」

その風によって、先程のカミュが残した紙が、トウカの背に貼りつく。

「ぅ・・・・なんだ、目眩が・・・?」

幻術にかかり、よろめく彼女。
ようやく立ち直った時、その目に映ったモノは・・・

人形(本当は重りにしてた焼き菓子)だった。

「あれ・・・」
(このコは今朝磨いて仕舞っておいたはずだが
 ・・・記憶違いか?某としたことが・・・)

手を伸ばし、ソレを懐に仕舞い直す。

「・・・夕飯まで、まだ刻がある。もう一度磨くか・・・」

そんな事を考えながら、彼女は部屋を出た。

ムント(二)

話は、少し前に戻る。
カミュ、アルルゥが丁度、例の菓子を持ち出してきた頃・・・


その頃。ムントは廊下を駆けていた。

先程見た、彼女達の残した書置きの事を、本気で信じながら。

つい先程、食糧庫に行き、倒れていたオボロを見てきたばかりである。

そして、丁度城内へと、戻ってきた時・・・

「ク、クロウさ〜ん!」

 ズッシ〜ン・・・

「!」
(姫様のお声・・・!!)

「姫様?何処におわすのですか――!?」

 ・・・・・

声を聞き、慌てて叫ぶが、返事は無い。

不安にかられたムントは、急いで声(と音)のした方へと向かう。
そこには・・・

「!クロウ殿!?」

案の定、クロウが倒れている。

「クロウ殿!?しっかりしなされ!」

かけより、ゆする。

「う、うぅぅ・・・」

うめき声をあげるクロウ。
生死を確認し、安心したのか、ムントはゆっくりと彼を床に横たえる。

そこへ。

「うわぁぁぁぁぁぁ・・・」

またもや、聞こえる悲鳴。

「あの声は・・・ドリィ殿にグラァ殿!?」
(一体、何が・・・?いや、それより姫様は・・・!?)

そんな事を考えつつ、次なる事件現場に到着する。

「・・・はて・・・お二方は、一体・・・?」

実際は、窓の下で伸びているのだが。
ムントが気づくわけも無い。

「・・・・・」
(オボロ殿に続き、クロウ殿・・・更には今の様子からすると、彼等もまた、
 敵の手に・・・やはり、あの書置きの主は本気のようだ)

立ち止まり、状況を考察する。

「・・・何が目的かは知らぬが、調子に乗り過ぎたようですな・・・」

そして、まだ見ぬ敵(というか仕えてる姫様)にむかって、彼は呟いた。

「仮にも僧正まで登りつめたこのムント。法術も、まだまだ若い者に負けはせん・・・
 見事、姫様を助け出して見せましょうぞ。我等が神よ!」

誰かに誓うよう、そう叫ぶと、ムントは腰に手を当て、廊下を歩いて行った・・・
先程の走りで、少し腰が痛くなってしまったためだ。
しかも・・・

(決してあなた方の犠牲、無駄にしませんぞ・・・)

などと、勝手に心の中で、今までの犠牲者達に言葉を送っていた。

ムントが途中、見上げた青空には、彼等の顔が浮かんでいた・・・


(勝手に殺すな!!!!)  by.犠牲者の方々。


犠牲者 第五・第六号(二)

その頃、トウカは、廊下を歩いていた。
人形を拭くため、布を湿らせに行こうと思ってのことだ。
しかし・・・

(なぜか・・・ふらつくな・・・?)

まだ、彼女にかかった幻術は、とけていなかった。
【幻術は、生真面目な者にほど、効きやすいらしい・・・】

(風邪でも引いたか?某としたことが・・・)

だが、そんな考えが浮かんでも、彼女は部屋に戻ろうとはしない。

『エヴィンクルガなら、病魔など何するものぞ!』という、
ある意味無茶苦茶な考えを信じていたからだ。

そういった性格でトラブルを起こしまくっている(自滅しまくってる)
事を、彼女は自覚していない。
自身の口癖さえも理解していないのだから・・・
≪後に、ある男が忠告するまでは。≫

そして、それもまた、この時の彼女と彼の不幸の元であった・・・

水場に行き、湿らせた布で人形(だと思っているモノ)を
拭きながら部屋に戻ろうとした時の事。

 ガッ・・・

「うぁっ!?」

途中、階段に足を引っ掛け、転んでしまう。

「っッ〜・・・某としたことが・・・って、あ?あのコは・・・?」

見れば、通路の方まで飛んでしまっていたようだ。
そこに。

「おお、トウカ殿!」

 グシャ!!

「!!」

丁度通りがかったムントによって、その人形(焼き菓子)は踏み砕かれた。

「〇×□△×●◎――――!!」

声にならない悲鳴を上げるトウカ。
元が元だけに、踏まれればああなるのは当然なのだが・・・
まだ幻術にはまっているトウカの目には、ムントの足の下、
粉々になった『そのコ』が見えていた・・・

「?どうか・・・なされましたか?トウカ殿?」

ムントは足の下のモノになどまるきり気づかず、声をかける。

「・・・・・・」
「・・・トウカ殿?」
「ケ・・・・」
「毛・・・?」



「クケ―――――――――――――――――――――ッ!!!」

 ドカッ!

「あごッ!」

黄金の右。

「キィィィィィィィィィィィッ!!」

 ドカッ、ズカッ、ボカッ!

そして馬乗りになってさらに、連打、連打、連打。

「あぶっ、あがっ、あごうっ!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」


ひとしきりムントを殴った後。
トウカは泣きながら何処かへ走り去っていった。


「ぐ、ぐぅ・・・」

こうして、ムントも他の者同様、エルルゥの元へと運び込まれる事になる。

僧正、としての実力はともかく、トウカの攻撃で死ななかった事は
ある意味驚嘆に値することだろう。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー―――っ」

一方、トウカは。
まだ、泣きながら城内を駆けていた。

その姿は素早く、目で確認できぬ者さえいたほどだった。

そして、その者達が、新たな『禍日神』の噂を作り上げ、
城内に流すのも、そう時間のかかることではなかった・・・


犠牲者 第七号

「・・・なんか・・・城の方が騒がしいね」
「んう?」
「ヴォ?」

アルちゃんやムックルには、聞こえてなかったのかな。
誰かの悲鳴と、殴る音、走る音とか聞こえたような・・・

「まぁ、いいか。どうせまた、オボロ兄様とクロウさんが喧嘩してるんだよね」

その本人達を先程病室行きにしたのも忘れて、私はつぶやく。

「よーし、そろそろ戻ろ。作戦其の四、開始だよ〜!」
「ん!」
「ヴォ!」
        * * * * * * 

「あ・・・いた!」

ムントの部屋に辿り着いた時。
そこの入口から、ムントのいつもきている法衣が、確かに見えた。
一瞬だったけど、間違いない。

「よ〜し。アルちゃん、行くよー!」
「お〜!」

そして、私達は作戦を決行した・・・
        * * * * * *

「・・・ふぅ、これで・・・いいかしら?」

ムントの部屋の掃除を終え、私は一息ついた。

「姫様、姫様といって私達を思ってくれているのは嬉しいけれど・・・」

ホコリがついていて、先程部屋の入口で払っていた法衣や寝床の毛布を見た。

(自分のことができていないのでは、カミュのことは言えないですよ・・・)

心の中で、そう呟く。
実際、ムントは何でも私達に構いすぎる。

あの子だって、もうそんなに子供ではない。
女らしく、とよくいうけれど、そういったものはきっと、
そのうち自然に身に付くと、私は信じている。
そう、そのうちに・・・・

(あ、いけない・・・)

ハクオロ様に用事があったのを思い出す。
そして、早く行かなければと、部屋から出た、その時だった。

「あ・・・」

そんな声が聞こえた瞬間、ソレらは、襲い掛かってきた。

「え!?」

私の大嫌いなカエルが数匹。こちら目掛けて飛んでくる。

「い、いや、いやぁぁぁぁぁっ!!」

慌てて逆方向に逃げる私。

だけど、振り返れば、何故かカエルはおってくる。

「いやー―――――――――ッ!」

とっさに、そばにあった部屋に逃げ込んだ。
瞬間――――

「えいっ!・・・って、あ・・・!」

そんな声と共に、何かを貼り付けられる感覚。
そして、気が遠くなって・・・そこで目に映ったモノは・・・

「・・・え・・・」

部屋中、埋め尽くすようなカエルの群れ。
その全てが、私を見ている。

「う・・・うぅっ・・・」

いや、見ているだけでなく、寄って、来た―――――

「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

    * * * * * *

「マズい!アルちゃん、逃げよう!!」

なんで、ムントの部屋に姉様が――――――
って、そんな事はどうでもいい!

部屋を出て、私はアルちゃんの元へ駆ける。
早く逃げなきゃ、姉様は―――――

「§ζτω!!」「ξζτ!!」「ψτξ!!」

ドガ―ン! ズゴーン! ズガァァァン・・・!

「あぁ・・・やった・・・」

風の術法、水の術法、高粒子砲こと、光の術砲・・・
それらが全て、あの部屋内で放たれたのがわかる。

おそらくは、あの部屋は焦土と化していることだろう。
そして多分、姉様ものびているはずだ。あれだけの力を放出したんだから・・・

「うぅ・・・こうなったらしかたない・・・ホントにホントの、最後の手段だよ!」

そして私達は、最終手段に出た。
それをしかける相手が、すでにいない事も、知らずに・・・


犠牲者 第八・第九号

「・・・かみゅち〜」
「・・・何、アルちゃん・・・?」
「ココ、ちょっと、怖い・・・」
「あはは・・・まぁ、そう・・・だね」

それはそうだ。
なにせ、ここは書斎の真上。
ハリの上に、登っているのだから。

それにしても・・・

「ベナウィ、この書類だが・・・」
「はい、何か?」
「何故か、城内の酒代が急激に上がってないか?」
「・・・当然でしょう、元から酒飲みが揃っている上に、
 うわばみのように飲む者をさらに加えたのですから」
「ぐ・・・」
「それより、聖上、この書類、本日中までですのでお願いします」

そういって、いつもよりは少ないが、
やはり山としか見えない量の書類を運んでくる。

「おい・・・こんなにか?」
「はい。『これだけ』です」
「もう少し・・・まけてくれ・・・」
「びた一文まかりません」
「・・・お前・・・商人にでも転向した方が、いいんじゃないのか・・・?」
「いえ、勝手に城を抜け出し、商人一座として活躍するなど、私にはむりなことですから」
「ぐぁ・・・」

おじ様はベナウィさんにことごとく論破されてしまい、
仕方なく、といった感じで仕事を始める。

でも、なんだかんだいっても、やはりおじ様は凄い。
そんな書類の山がどんどん無くなっていくさまは、上から見ていても壮観だった。

「ベナウィ・・・」
「はい」

おじ様が、ベナウィさんに耳打ちしている。・・・なんだろう?

((なぁ、上の二人・・・先程からあんな所に登って降りてこなくて、
  気になるんだが・・・))
((・・・お気持ちは解りますが・・・邪魔しに来たわけでは無いようですし・・・
   仕事を早く片付けてしまって、お構いになってあげるというのは?))
((・・・それはそうなんだが・・・やはり、気になる・・・))

 ※((  ))内の会話は、ハリの上の二人には聞こえてません。

なんだかわからないけど、それから二人の仕事の速度が、上がったような気がした。

「かみゅち〜」
「あ・・・、何、アルちゃん?」
「疲れた」
「う・・・まぁ、そうだね・・・」

最終作戦。それは簡単なものだ。
『作戦其の一』で使った鉄たらいを持ってきて、
ムントが来そうな所に潜み、上から落とす。

で、仕事が終わった後よくムントが寄ってるここに来たんだけど・・・
一向に、来ない。

「う〜」
「あ、アルちゃん、頑張って・・・」

たらいは、アルちゃんに持ってもらってる。
アルちゃんが落ちた時、私が受け止められないと大変だから。

「あ・・・」

突然アルちゃんがバランスを崩し、鉄たらいを落とした。
しかも。

 がしっ!!

「あにゃっ”!!」

落ちまい、と私の羽をつかんだ。
当然私も飛べず、アルちゃんと共に落下する・・・

「ベナウィ、此処、少しおかしくないか?」
「どこですか?」
「ほら、ここ・・・うがっ!?」
「ぐっ!?」

  ごいぃぃぃぃぃん・・・

書類を見るため、寄り合った二人に、炸裂する鉄たらい。
そして、さらなる、衝撃。

 ドガシャー―――――ン!!

「あ・・・にゃ・・」
「う、ん〜・・・」

「う、うぐっ・・・」
「・・・・・・っ・・・」

しばらくもんどりうつ、私たち。
ようやく、顔を上げると、そこには・・・

「ぁ・・・」

机ごと、破壊された書類の山。
散乱したモノも含めて処理するとすれば、一日でも終わるかどうか・・・

「・・・・・聖上」
「・・・なんだ」
「少し・・・宜しいですか?」

いつのまにか立ち上がっていたベナウィさんが、私達を指差して、言う。
その頭からは、血がだくだくと出ていた。(おじ様も)

「・・・あぁ」

少しして頷く、おじ様。

「・・・・・二人共。そこにお座りなさい」


・・・そして、私達はベナウィさんに、こってりと叱られることとなった・・・

(終章)

「あ〜ぁ・・・ごめんね、アルちゃん。
ろくな事にならなかったね。今日」
「ん〜ん・・・」

アルちゃんは首を振る・・・
しかし、その顔には、疲労が色濃く出ていた。

その時・・・

「姫様ぁ――――――――っ!!」
「げっ!?」

廊下の向こうから、何故か顔中に包帯を巻いたムントが、走ってくる。
その異様さにのまれ、立ち尽くしていると。

「姫様・・・」

ムントはすぐ目の前まで来た。

(怒られる・・・)

そう、思った。
・・・でも。

「姫様・・・本当によく・・・ご無事で・・・」

ムントの口から出たのは、私の全く予想していなかった言葉だった。


ムントの顔に巻かれた包帯、ぐるぐる巻きで、口も鼻も見えない。
ただ一つ、見える目から、流れ出したのは、涙だった。

「本当に・・・心配しましたぞ・・・姫様に、何かあれば・・・ムントめは・・・」

そこで言葉を切ると、抱きしめてくる。

私は、何も言えず、そのまま・・・しばらくいた。

「ごめんね・・・」

小さく、呟いた。
ムントは、何も言わない。
もしかして、気づいていないんじゃなく、
全て知って、許してくれたのかもしれないと思った。

あえて私は、確認しなかった・・・

      * * * * * *
「ねぇ、アルちゃん」
「んぅ?」

夜、私の部屋で。
私達は、一緒に寝ることにした。
今日は、何となく、そんな気分だったから。

「いたずらって・・・好きな人だから、するものなんだよね」
「・・・ん?」
「イジワルじゃなくて、ちょっとした、言葉通りの悪い遊び・・・
 そう、思ったんだ。さっきのムント、見てて。」
「・・・ん〜?」
「あはは。ごめん。がらでもないこと、言っちゃったね」

首を90゜ほど曲げ、考え込んでいるアルちゃんを見て、苦笑する。

「いたずらは、必ずしも、悪い事じゃ、無いよね・・・
 こんなに大事な事、気づかせてくれたんだから・・・」
「ん・・・ぅ〜・・・」
「あ、ゴメン。もう眠ろうか」
「ん」
「・・・お休み。アルちゃん。今日は・・・ありがと・・・」

そう小声で言って、私も、アルちゃんの隣で横になった。


犠牲者 最終章

その次の朝は。
よく晴れて、何の文句も出ないくらい、いい朝だった。

・・・いつのまにか、アルちゃんがいなくなっていたことを、除けば。

(どうしたんだろ・・・なにかあったのかなぁ?)

そんな事を考えていたところに、丁度アルちゃんは戻ってきた。

・・・何故か、『例の件』の時使った、筆と墨を持って。

私は、猛烈にヤな予感がしたので、当然聞いてみた。

「アルちゃん・・・何、してきたの・・・?」
「イタズラ」

即答だった。・・・でも。

「かみゅちー達みたく、仲良く、なる」
「え・・・?」

付け加えた答えに、言葉が止まる。
どことなく、嬉しそうな顔。

そうか。アルちゃん、そういったところも・・・
私と、似てるのかもしれない。
そう、思うと、何故かそれも嬉しかった。

それに仲良くなりたい、っていう相手も、少し見当つくような気が、した。

「おじ様でしょ?その相手って」
「ん〜ん」

アルちゃんは首を振る。

「え・・・っ?じゃ、誰・・・?」
「・・・・・ヴァヴァア」

それを聞いた瞬間。私は、凍りついた。

      * * * * * *

「う〜ん・・・今日も、いい天気みたい・・・」

背伸びをして、部屋から出る。
すると、もう起きていた人達が気づき、声をかけてきた。

「お、エルルゥ。昨日は世話になった・・・な――――――っ!?」
「姐さん、昨日はお世話になりやし・・・・っ!?」

オボロさんとクロウさんが同時に固まる。

「・・・?どう、したんですか?」

「い、いや、なんでもない。クロウ、行くぞ」
「お、おう。姐さん、じゃ、また後で」
「?」

わけがわからず、首をひねっていると。
 
「・・・・・これを」

ベナウィさんが、鏡を渡し、そそくさと立ち去っていった。

「?なんだろ、いったい・・・!?」

        * * * * * *


「ア〜ル〜ル〜〜ゥ〜〜〜!!」

 ビック――――ン!! ×3

地獄から聞こえてくるような声が、聞こえた瞬間。

ムックルは、アルちゃんを乗せて、脱兎の如く逃げ出した。

「コラ――――――――――――!!待ちなさ―――――い!!」

鬼の如き形相で、エルルゥ姉様がそれを追う。

姉様の顔には・・・いわゆる「ちょび髭」が、くっきりと墨で書かれていた。

「あ、あはははは・・・」

もう、私は笑うしかなかった。


今日もいい天気だ。さぞかし、・・・熱い一日になるだろう…

                      (完)



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