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〜あだ名、再び〜 其の一(開始・エルルゥ)
ナ・トゥンクへの旅が終わって。
大敵であったシケリペチムとの戦も決着を付け。
落着いてきた今日この頃、カミュ達三人は、
ユズハの部屋で例の札遊びをすることが多くなっていた。
これはそんな、ある日のお話。
「はい、これでどうだ!」
カミュが、一位の座を賭け、切り札を投入した。
「ん」
「え?アルちゃん、そんなあっさり勝てるの・・・?」
「あの・・・私も・・・」
「ゆ、ゆずっちまで〜!!うう・・・なんでいつも、カミュばっかり・・・」
あっさりかわされ、うなだれるカミュ。
実際、三人でやっているというのに、
彼女には一位になった経験が未だに、ほとんど無い。
ユズハが強いのはある。
アルルゥもそこそこの腕だ。
だが、なによりカミュの、先読みが出来ない弱さが影響しまくっていた。
「ん。終わり」
「カミュちゃん・・・ごめんなさい」
「うぁ〜・・・また、負け・・・」
後ろ向けに、倒れるカミュ。
そんな所に、エルルゥが入って来た。
「あれ・・・?カミュちゃん、どうしたの?」
「かみゅち〜、また札、負けた」
「うぅ〜・・・」
「カミュちゃん・・・元気出して・・・」
「うん・・・ありがと、ゆずっち」
そんなやり取りをみて、エルルゥが微笑む。
「相変らず、仲いいんだね」
「そうだよ〜。何て言ったって、あだ名決めあった仲だもん」
カミュが起き上がり、誇らしげに胸を張って答える。
もう、立ち直ったらしい。
「・・・そ、そう。羨ましいな・・・」
かえすエルルゥの視線は、カミュの顔ではなく・・・揺れた、別の場所にいっていた。
「・・・そうだ。前にも言ったけど、エルルゥ姉様にもあだ名つけてあげようよ!」
そんな事に全く気づいていないカミュは、ユズハやアルルゥに提案する。
「え?いや、私は別に、いいから・・・」
慌てて断るエルルゥだが、それがカミュの目には、遠慮してる様に映ったらしい。
「いいの、いいの。う〜ん・・・そうだね。姉様は、エルルゥだから・・・」
「・・・えと・・・」
考え込むカミュに、もうエルルゥは反対できなかった。
「エルちゃん・・・」
「エルエル、えるっち、・・・なんか、いいのでないなぁ。アルちゃんは?」
「ヴァヴァ・・ムグ・・」
「わー!わー!わー!」
「?」
大声を上げ、アルルゥの口を手で塞ぎ、カミュは続きを遮った。
その名は、どう考えても、マズイ。
(アルちゃん・・・それはちょっと、止めた方が・・・)
(・・・ん。・・・じゃ・・・やっぱりエルン)
(それもダメ!)
「「?」」
後ろ向きでひそひそ話し始めた二人に、エルルゥは少し怪訝な顔をする。
ユズハに至っては、何をしているのかも解らなかった。
「ま、とにかく、他になんかないかな、アルちゃん」
そう言いつつも、手が構えを取っている。
アルルゥがまたその口で爆弾を作動させないように。
いつでも止められるように、だ。
「ん〜・・・」
「「「・・・・」」」
「エルク○」
「「「!?」」」
しばらく考えて後、アルルゥが出した言葉は、何処かで聞いたことのあるような名前だった。
「・・・なにか、ソレって・・・色々と、マズイと思うんだけど・・・」
カミュの言葉に、残る二人も頷いた。
「やっぱり、他の名前、無い?」
「・・・む〜・・・」
却下された事が少し不満らしかったが、やがてまたアルルゥは頭を捻って考え始める。
そして、一瞬、エルルゥの方を見ると、ぽふ、と手を叩を合わせ、言った。
「しなねむ」
「「「・・・?」」」
エルルゥを指差してのその言葉に、三人とも首を捻る。
「何、それ?」
「自分で、考える」
エルルゥの問いにも、答えないアルルゥ。
「え〜と・・・・・ぁ!!!」
「?」
気づいたカミュ。
・・・そう、もう、爆弾は作動してしまっていた。
「お姉様、ごめんね。用事思い出したから!」
ユズハの手を取り、アルルゥも連れて、部屋の入口にいたムックルに飛びつく。
「え?あっ、ちょっと・・・」
あっという間に、ムックルに乗って走り去って行く三人。
後に残されたエルルゥは、アルルゥの言葉の意味を考え続ける。
そして・・・
「しなねむ・・・しなねむ・・・・・・むね・・・むねな・・・!!」
[エルンガーモード、スイッチ、ON]
「アルルゥ〜 〜 〜 〜 〜!!!」
〜あだ名、再び〜 其の二(ムント)
「ハァ、ハァハァ・・・此処まで来れば、大丈夫だよね」
ユズハの部屋からかなり離れた通路まで来て、カミュは一息ついた。
「エルルゥ姉様、怖かったなぁ・・・まさか、ムックルに追いつくなんて・・・」
そう。あの後、エルルゥは走って追いかけてきたのだ。
危険を感じたカミュが、残る二人を抱えて飛んで逃げて、今に至る。
「でもさあ。アルちゃん、ちょっとひどくない?怒るよ。あんなあだ名」
「でも、ホントのこと」
「・・・?」
ユズハは首を捻って先程の名の意味を考えつづけている。
もともと、エルルゥの姿が見えていない彼女にとって、解れと言う方が無理かもしれない。
「でもねぇ・・・アルちゃんと同じで、姉様だって、そのうちもっと大きくなるよ。きっと」
「ムリ」
即答だった。
エルルゥがこの場にいたら倒れていたかもしれない事を、サラッと言う。
「あ、そ、そう・・・」
もはや、カミュも苦笑いするしかなかった。
「おや、姫様にアルルゥ様、ユズハ殿まで・・・何をしてらっしゃるのです?」
「あ、ムント」
少しその場で話していると、ムントが通りがかった。
「ちょっと、あだ名について、ね・・・
あ、そうだ!エル姉様の代わりじゃないけど、ムントにもあだ名つけてあげようよ」
再び、カミュの提案。残る二人も即座に頷き、賛成する。
「え、姫様達にそんな・・・恐れ多い。お気持ちはありがたいですが・・・」
当然、そんな言葉は其の時はもう、カミュ達の耳には届いていなかった。
それを察し、ムントも観念する。
「う〜ん。ムント・・・ムント・・・ムンムン・・・あ〜。ダメ。思いつかない」
「ムンちゃん・・・」
「いや、ちょっとそれは可愛すぎるよ」
「そうですか・・・それじゃ・・・ムーン、というのは・・・」
「・・・うーん・・・やっぱりそれも可愛い部類に入りそうだしなぁ・・・
それに、どっかで聞いたような・・・?」
くいくい
盛り上がる二人に対して、考え込んでいたアルルゥが袖を引っ張る。
「あ、何かいいの浮かんだ?アルちゃん」
「ん」
「何?どんなの?」
「セバ○チャン」
場が凍りつく。
「アルちゃん・・・ソレ、何から思いついたの?」
「何となく」
「・・・ちょっと前にそういったあだ名の人がいたような・・・?」
「じゃ、セバスチャン二号」
「『二号』つけても意味無いって。・・・確かに、似合いそうだけど・・・」
そう言って、ムントを見るカミュ。
「・・・おほん。・・・盛り上がるのは大変結構ですが・・・」
この話題をこれ以上続けて欲しくなかった為もあるが、
ムントは先程から抱いていた疑問を口にした。
「姫様・・・今日の課題は終わられたのですか?確か、五十枚程聖典の問題があったはず・・・」
「え”」
カミュの動きが、止まる。
そして、わたわたと動き出す手と、泳ぎまくる目。
「お、終わったよ。やだな。終わってないのにこんなトコいるわけ無いじゃない」
「・・・では、四十三枚目の問題。我等がウィツアルネミテアの好物を述べよ」
「え!?え〜と・・・・・・・・・モロロ、かな?」
「違います」
「う”・・・じゃ、じゃぁ・・・はちみつ、とか・・・」
「違います!そもそもそんな問題自体、出ておりません!」
「え〜!ずるいよ、そんなの!」
「ずるい、ではありません!
大体、我等が主が、そんなものを好物だというわけがないですぞ!」
「そんなのわからないじゃない!」
「いいえ。神に仕えて早○十余年・・・このムントめにはわかります!」
* * * * * * *
一方、書斎では。
「聖上、エルルゥ様から差し入れが入っているそうです。
そろそろご休憩なさいますか?」
「そうしてくれ。これ以上やったら腕がおかしくなる」
「・・・・これが差し入れですか・・・焼きモロロ、モロロ粥、ハチミツ酒・・・」
「いいんだ。ベナウィ。これらは皆、私の大好物だからな」
「いえ、実に聖上の好みがよくわかってらっしゃると思い、感心していたのです」
「そうだろう。・・・う〜ん、美味い。モロロも、ハチミツも、絶品だ・・・」
・・・そうでもないみたいですよ。ムントさん。
〜あだ名、再び〜 其の三(オボロ)
「ハァ、ハァ、ハァァ・・・も、もうだめ・・・」
息を切らせ、仰向けに転がっているカミュ。
・・・無理も無い。
あの後、またアルルゥとユズハを抱え、ムントから逃げたのだから。
カミュの方が、彼よりも飛ぶ速度は断然速い。
しかし、軽いとはいえ、人二人抱えての飛行はきつ過ぎた。
速さが落ちた分、余計撒くのに時間がかかってしまったことも災いしている。
「・・・ん?カミュじゃないか。アルルゥに、ユズハ・・・お前まで。
何やってんだ?」
声のした方を振り返れば…
オボロだ。
よく見れば、此処は訓練場の辺り・・・彼がいても、別におかしくは無い。
「エル姉様と・・・ムントのあだ名考えてたら・・・こうなった、の・・・」
「は?あだ名で?何だ、そりゃ?」
途切れ途切れのカミュの言葉。
まぁ、まともに言えていたとしても、オボロにその意味が理解できはしないだろう。
「・・・そうだ。お兄様にも・・・あだ名・・・」
「ぁ?お、俺?」
ユズハが、つぶやく。
いきなり振られて、驚くオボロ。
「駄目、ですか・・・?」
「い、いや、そんなことはないぞ!」
少し悲しげに、尚且つ上目遣いでこちらに顔を向けるユズハ。
そんな彼女の仕草を見れば、兄でなくとも、頼みを断れる男などいまい。
「・・・ええと・・・オボロ・・・オボロ・・・」
「・・・・・・・・・」
少し期待した目で、静観しているオボロ。
だが、その想いはすぐに裏切られた。
「・・・・オロオロ・・・・ボロボロ・・・・」
「!?」
「だめだよ、ゆずっち。いくらそういった状態になってること多いからって」
「でも、似合う」
ガガガ――――――ン!
擬音が後ろに見えそうなほど、衝撃を受けているオボロ。
「あ、ごめんなさい、兄様・・・って、あれ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お、オボロ兄様・・・?」
放心状態でしばらく動かなくなる彼。
そして・・・・
「ドリィ、グラァ」
「「ハイ」」
名を呼ばれると同時に、近くの木から、二人が音も無く降り立つ。
何時からいたんだ、とカミュはつっこもうとしたが、やめにした。
「介錯を頼む」
「「「は?」」」
いきなりの言葉に、一瞬事体が飲み込めない三人。
「ユズハにこうまで言われて生きてられるか――――――!!
腹かっさばいて、親父の所に行って詫びる!」
上半身裸になり、得物を抜き出して宣告通り腹に当てる。
「「若様!!はやまってはいけません!!」」
「オボロ兄様、やめて―――!!」
「うおお!離せ!」
・・・ちなみに、アルルゥとユズハはどうしたかというと・・・
* * * * * *
「ん。食べる」
「・・・ありがとう。アルちゃん・・・」
「ん」
「美味しい・・・」
「ん。また、来る」
「ハイ・・・」
* * * * * *
オボロが停止している間に、
近くの食糧庫へ行き、つまみ食いしていた。
(ユズハは誘われただけ、とも言える)
なお、二人にはオボロ等が騒いでいる声は当然聞こえていなかった・・・
〜あだ名、再び〜 其の四(クロウ)
「ん・・・?ありゃオボロ・・・じゃなくて、若大将・・・って、何やってんだ!?」
訓練場で、騒ぐオボロ達を見ていたクロウは慌てて三人の元へ駆けつける。
「てんメェ!」
「ガハッ!?」
脳揺らし攻撃。そして、鳩尾にも一撃加える。
「・・・・・・・・・・」
オボロは再び、今度は別の意味で沈黙した。
「あぶねぇトコでしたね・・・しかしドリグラはともかく、
姫さんを手篭めにしようたぁ、何考えてんだ。こいつ」
「「「え?」」
どうやら、何か勘違いしていたらしい。
上半身裸で、得物を持って・・・・三人に襲い掛かかってるように、クロウには見えたのだ。
* * * * * * * *
「はははははははははは!そんなことだったんですかい!」
「笑い事じゃない!死にかけたんだぞ。こっちは」
「わりィわりィ。・・・まぁ、流石に『親父・・・御袋・・・ここは・・・?』
とかつぶやき始めた時ゃ、焦ったがな」
「あのまま、そこの川の向こう行ってたらと思うと、ぞっとするぞ・・・」
オボロの意識が回復し、アルルゥ達も戻ってきて。
話に花を咲かせていると。
(ドリグラは再び木の上に戻った。今も何処かから見守っているのだろう)
「そうだ、クロウさんにも、あだ名!」
カミュがまた、そんなことを言い始める。
「ぇ!?お、俺もですかい?」
「ん。『俺』も」
「まいったな・・・」
すでにその場の者全員が、長考状態に入っている。
今更断る事もないかと、クロウはしばらく待った。
「う〜ん・・・・クロクロ、くろっち・・・」
「クロちゃん・・・」
「でかいんだから『大木』なんてどうだ?」
「・・・『ウドの・・・』って言いてぇのか、てめぇ」
「よくわかったな」
「じゃ、おめぇは『瘠せちび』で決まりだな」
「ほう・・・・・・」
「はん・・・・・・」
「「・・・殺す!!」」
めいめいが勝手に考えたり、揉めたりしている中で。
アルルゥが思いついたことがあったらしく、また手をぽふ、と合わせた。
「黒子」
「「「「 ?? 」」」」
全員が、首をかしげる。クロウとオボロも、争いを止めた。
「最近、影薄い」
そしてその言葉で納得する。
「ひ、ひでぇや・・・」
「はははははははははは!!」
クロウは少し落ち込み気味になる。
オボロは腹を抱えて笑っていた。
(そして其の後、復活したクロウにどつかれている。)
「アルちゃ〜ん・・・もう少し、可愛い名前考えてあげようよ・・・」
クロウ相手に、可愛い、というのもどうかと思うが。
「い、いや・・・俺はもういいですんで・・・そうだ。
大将にあだ名つけるとしたら、どんなんですかね?」
話題を逸らす為もあるのだろうが、クロウは興味深げに聞いて来た。
〜あだ名、再び〜 其の五(ベナウィ)
「え?ベナウィさんに?」
「そうっす」
「う〜ん、そうだね。何がいいかな・・・」
「・・・ベナちゃん…」
「・・・ベナベナ・・・ベナっち・・・」
「・・・俺の時と大して代わってやせんが・・・」
「それ以前に、あいつがいたら『御気遣いは感謝しますが・・・』とか言って、
断られるのがオチだろうが。どうせいないんだから、俺たちも考えようぜ」
「ああ。そうすっか」
と、まあ、それぞれがベナウィのあだ名を考える。
「堅いから、『石』なんてどうだ?」
「いいねぇ・・・そういや、俺は『妖刀』って呼んでた時期もあったな」
そう言い、意味を説明するクロウ。
「・・・成る程な・・・しかし、他にもっと面白いあだ名ないのか?」
『面白い』を強調しているあたり、本来の目的からかけ離れているのだが。
誰もそんなことは考えない。
本人はいないからいいや、という感じなのである。
ユズハも、『可愛い』名前を考えるのに夢中だった。
「その『妖刀』ってのみたく、特徴からとっても面白いだろう」
「特徴ってなんだよ」
「そうだな・・・・やっぱ、堅い以外には、説教くさい、
・・・もとい、年寄りくさいというか・・・」
その言葉を聞いて、またまたアルルゥが手を叩き、言った。
「ズィズィイ(じじい)」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」」
刻が、止まった。
そして。
「「ぎゃははははははははははははははははははははははははは!!」」
爆笑する、オボロとクロウ。
「・・・・おかしい?」
自身は全く悪気は無いので、隣のカミュに聞くアルルゥ。
「・・・う、うん・・・すっごく・・・」
彼女も、涙目だ。その前の二人の声にかき消されてしまったが、彼女も笑っていたらしい。
ただ、やはりユズハだけはその意味を理解できないでいた。
彼女はもちろん、彼に怒られたりした事はなかったからだ。
・・・・ひとしきり笑い、そんな時が過ぎた後で。
「はっ、はははっ、はは・・・絶妙な名づけ方っすね。姫さん」
「・・・・・・そうですか?」
「ふっ、は、はは・・・そりゃ、そうっすよ。大将がいたらまずいっすけど・・・・・・・!?」
まだ笑いが収まらぬままアルルゥにそう言ったクロウは、
途中で、後ろから降ってきた声の冷ややかさに気づかぬまま、振り返った。
そして、固まる。
・・・ベナウィの姿を、目にして。
「・・・・訓練場のキムト達(兵士の名)から、貴方達が戻って来ないと報告があって来てみれば・・・
随分と偉くなったものですね?クロウ」
何時からいた、とは言っていないが、その目は、全て聞いた、と語っていた。
「え?ぇぇいや・・・これは、その・・・・わ、若大将・・・」
オボロの方を振り返れば。
脱兎の如く駆け、小さくなってゆく彼の後ろ姿が見えた。
「・・・・・ひ、姫さん・・・・」
三人の方へ、視線を戻せば。
遥か空の彼方。城の方へ、豆粒ほどの大きさになっていく彼女達がいた。
「・・・・・今日は、久々に私と組み手をしますか。・・・もちろん、本気で、ね」
そう、話し掛けるというより、むしろ宣告に近い形で言い切ると、
ベナウィはクロウの巨体を訓練所に向け、引きずって行った・・・
「ぎゃあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
その後、そこに特大の悲鳴が響き渡ったのは、言うまでも無い。
〜あだ名、再び〜 其の六(トウカ)
「ぜぇ・・・・ぜぇ・・・・ぜぇ・・・
も、もう・・・・これ以上・・・やったら死んじゃう・・・」
城内の通路で倒れ伏すカミュ。
あの後、ベナウィから逃げる為、全力で此処まで飛んできた結果が、これだ。
そばではどこから持ってきたのか、うちわで彼女を扇ぐアルルゥとユズハがいる。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・・」
「おお、カミュ皇女・・・・!?如何なされたのです!?」
不意に、後ろから、声。
そう言って慌てて駆け寄ってきたのは、トウカだった。
「これは・・・!?凄い熱だ。すぐ、エルルゥ様の所・・・・い、いや、
確か今訪ねてきたがいらっしゃらなかったし、ウルトリィ殿も・・・・・・そうだ!」
額に手を当てると、何かひとしきり考えた後、彼女はカミュの体を抱え上げる。
「某の部屋をお貸しします。しばし、お二方がお戻りになられるまで、お休み下さい」
「は、〜い・・・・・」
疲れ果てていたカミュは、少しだけその言葉に甘えることにした・・・・
* * * * * * * * *
「しかし・・・一体、どうなされたのです?熱があるかと思いましたが、
そうでもありませんし。・・・風邪ですか?」
「う〜ん・・・・なんというか・・・・」
当然ながら、トウカの床で横になってすぐ、カミュは回復した。
もともと、体が熱かったのはただの運動のし過ぎなのだから。
「あだ名」
「え?」
「あだ名、考えて、こうなった」
アルルゥが説明する。
・・・まぁ、先程のオボロと同様、こんな説明で解る者などいるまいが。
「はぁ・・・それは、一体・・・?」
「あ〜・・・え〜とね・・・お城の皆に『あだ名』付けてあげようと思って。
まぁそれだけなんだけど・・・何故か、騒ぎになっちゃうんだよね」
「はぁ・・・あだ名、ですか・・・?」
「トウカ姉様も、付ける?」
「え?そ、某が・・・ね、『姉様』!?」
トウカはあだ名のことではなく別のことに驚く。
「え、だって、トウカ姉様カミュ達より年上でしょ?
ここでは年上なら『姉様』って呼ぶのが普通じゃない」
「某が・・・・・某が、『姉様』・・・・・」
ほにゃ〜〜〜
「え!?」
突然腑抜けてしまったトウカに、絶句するカミュ。
ほにゃ〜〜〜
「・・・・・・まぁ・・・じゃ、名前考えようか・・・」
「ん」
「ハイ・・」
と言うワケで、彼女を無視して三人は考え始めた。
「トウカ姉様は・・・トウトウ、・・・ウカウカ・・・・・・変だね。これじゃ」
「トウちゃん・・・・」
「そ、それちょっと響きがおかしいよ。お父様のこと言ってるんじゃないんだから」
「・・・とっちー」
「あ、いいかも。それ」
「・・・・・・・・はっ!」
「あ、姉様。やっと戻ってきた」
どっから、という突っ込みは禁止である。
「ねえ、姉様のあだ名だけど・・・『とっちー』でどう?」
「え・・・?そ、それが『あだ名』なのですか?」
「嫌?」
「め、滅相もありません。ただ、某の思っていたのと少し違っていたもので・・・」
「少し違う、って・・・・どんな風に?」
「はぁ・・・例えば、セッカ殿(知り合いの商人)には、
『電光のセッカ』なるあだ名があるとか」
「・・・・・・」
どうやら、勘違いしていたらしい。
「・・・姉様。それ、『あだ名』じゃなくて『通り名』だよ」
「そ、そうでしたか・・・・某としたことが」
「まぁ、同じようなものだし・・・そういったものの方が、姉様には似合うかも。
・・・何かないかな?ゆずっち」
「何か特徴を・・・参考にするといいのではないでしょうか・・・」
「あぁ成る程。オボロ兄様も言ってたよね。・・・そうだなぁ・・・それなら・・・」
くいくい
再び、カミュの袖を引っ張るアルルゥ。
「あ、また何か出た?アルちゃん」
「ん」
「何?」
「『うっかりトウちゃん』」
ガー――――――――――――ン!!
本日二度目の擬音背景驚愕的場面。(擬音バックにシヨック、のシーン)
「えーと・・・それなら、『うっかりとっちー』の方がいいんじゃない?」
否定はしないカミュ。
ガガ――――――――――――ン!!!
再び驚愕。(ショック)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
先程のオボロの様に沈黙するトウカ。
このままだと、また彼のように割腹しようとしかねなかった。
そこに・・・・
「あの・・・・」
そこに、ユズハが声をかける。
「あ、は、はぁ・・・・何か?」
慰めてはくれなくても、ユズハの言なら、と少し安心していたトウカだったが、
彼女の言葉は更に追い討ちをかける結果となった。
「あの・・・・お兄様が、トウカ様は時々『鳴く』って仰ってたのですけど・・・
ホントなのでしょうか・・・?」
「え”・・・」
「たまに、『クケ―』って鳴いてるって・・・」
「えぇ?ホントなの?姉様?」
「んう〜?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
トウカ、再び沈黙。
・・・そして。
「・・・・・急用があったのを忘れておりました。・・・某は、これにて」
それだけを言い残すと、風の如き速さで、トウカは部屋を出て行った。
* * * * * * *
「あ〜・・・やばかったな。まさかベナウィが聞いていたとは・・・・」
オボロは其の時、丁度城の入口に戻ってきた所だった。
「まぁ、『代わり』がいるんだし、大丈夫かな」
そう言い、訓練所のほうへ向かって、手を合わせるオボロ。
意外と鬼だ。・・・それとも、『兄者』に似てきたのか。
「・・・・・オボロ殿ぉぉぉぉぉぉ!」
そんな所に、トウカがもの凄い勢いで走って来た。
「・・・ん?何だ、トウカ。どうしたかしたのか?」
「どうかしたか、ではない!!貴殿はユズハ殿達に一体何を吹き込んだ!?
お陰で、もう少しで珍妙な『あだ名』を授けられる所だったではないか!」
傍に寄るなり、問い詰めるトウカ。・・・まぁ、当然か。
「珍妙、って・・・・どんなあだ名だ?」
「・・・う、『うっかりトウちゃん』、と・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ぎゃはははははははははははははははははははははは!」
今日二度目の大爆笑。
「わ、笑うところではない!」
「ぴったりだ。・・・事実だからしょうがないと思うぞ」
「じ、事実・・・ですと!?」
「そりゃぁ・・・お前、この前だって、茶運んでる時、転んで兄者にぶちまけたし
・・・後、其の前なんか、夜の見回りの時間、酒渡したら、酔っ払って寝ちまっただろ」
「・・・・・・・・・・・・」
「その他にも…ほら、あの時なんかな…」
トウカの『怒』ゲージが上がっていく。
それに、また気づかなかった事が、オボロの不幸であった。
* * * * * * *
「さてと。じゃ、そろそろウル姉様のトコでも行こうか」
「ん」
「ハイ・・・」
「じゃ、毛布畳んで、片付けとくから、先行ってて」
「わかった」
「了解、です・・・」
数分後。
「さて。これでいいかな・・・、行こう、っと」
「クケ――――――――――――――――――――――――――!!!」
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なっ!?何?」
聞こえてきた叫び声に、驚き、窓から身を乗り出すカミュ。
「あ、あれは・・・・オボロ兄様に、トウカ姉様・・・?い、一体・・・?」
* * * * * * *
「クケ―――――――――――――!」
いつもの如く。
馬乗りになって、連打、連打、連打。
「あべしっ!はべしっ!あぶろばっ!」
何処かで聞いたような悲鳴を上げながら、オボロが殴られ続けてる。
「わ―――――――――――――――――――ん!!」
そして、それが終わった後、泣きながらトウカは何処かへと、走り去った・・・
* * * * * * *
「・・・・・ホント、だったんだ・・・ゆずっちの言ってた事・・・」
かくして、彼女の話は禍日神として、城内にも其の話は広まる事になるが、
それはまた、別のお話。
〜あだ名、再び〜 其の七(カルラ)
「あ、ウル姉様。カルラ姉様も。いいトコで会えた」
とある通路を歩いていると。
偶然にも、二人と出会うことが出来た。
「あら、どうかしまして?」
「うん。あだ名つけて回ってるんだけど、姉様達にもどうかと思って」
「カミュ。また、貴方はそんな・・・」
「まぁ、良いじゃない、ウルト。面白そうですし。
そういうのも悪くありませんわよ」
「・・・ふぅ・・・・仕方ありませんね。カルラがそう言うのなら・・・・」
ウルトはそれほど乗り気ではなかったみたいだが、
カルラに促され、承諾した。
「そうだね・・・じゃ、カルラ姉様から。・・・うーんと・・・カルカル、かるっち・・・」
「カルちゃん・・・」
「カルピン」
「・・・・随分と可愛いのが一杯ですわね」
「・・・嫌、ですか・・・?」
「そういうわけではありませんわ。ユズハ。
・・・むしろ、もっと可愛くてもいいですし、ね」
「・・『カルゴン』」
その言葉をきいた直後、アルルゥが言った。
「・・・そ、それの何処が可愛いのですの?」
「怪獣みたいだよ・・・なんでそんな名前?」
「この前、暴れてた時、怖かった、って聞いた」
「・・・どなたに?」
「おとーさん」
カルラの脳裏に、ナ・トゥンクの時のことが思い出される。
おそらくは、あの時のことだろう。
(主様・・・後で、お仕置きですわよ)
[※そして、この夜、ハクオロは謎の大怪我を負う。]
「あ、そういえば・・・・」
「何?ゆずっち」
「『うわばみ』って、なんでしょうか・・・?」
「ど、何処でそんな言葉を・・・?」
「お兄様が・・・『カルラって、うわばみみたいに呑むんだよ。
あんだけ喰っちゃ寝してんのに太らないって、ある意味凄いぞ』
って、前に誉めてました・・・」
「ゆずっち・・・ソレ、誉めてないって・・・」
「・・・・・・・ふふふ・・・・・・」
カミュが苦笑して、説明しようとした時、
カルラが低い声で、笑う。
「ありがとう、ユズハ・・・今から、オボロにお礼して参りますわ・・・」
「ハイ・・・」
「それでは、カミュ。アルルゥ。これで失礼しますわ」
「あ、う・・・うん・・・」
そして、カルラは、去って行った。
――――――――――――――――――――――
・・・そして、少しした頃。
「そろそろ、ですね・・・・」
ウルトが、ユズハの耳を塞ぐ。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
其の瞬間、悲鳴が、上がる。
・・・・誰の物かは、言うまでもない。
こうして、トゥスクルの戦士がまた一人、逝った。
(エルルゥの所へ)
〜あだ名、再び〜 其の十(ウルト)
「う〜ん。じゃぁ、次は姉様の番か。・・・どんなのがいいかな?」
「変なのは嫌ですよ」
「わかってるって。えーと。うるっち、・・・ウルウル・・・」
「ウルちゃん・・・」
「ウルポン」
またまた、お決まりの考え方をする三人。
「・・・何か・・・どれも、私が泣き虫みたいに聞こえてしまいますね」
「う〜ん。そういわれれば・・・・でも、姉様って、あんまり泣いたことないよね」
「まぁそれは・・・そうかもしれません」
苦笑しながら、かえすウルト。
実際は、人前では涙を見せないだけだ。
陰で泣いていたことならば、そんなに無くはない。
まぁ、唯一の例外と言えば・・・・
「あ。でも、一度だけ。カミュ、泣いた姉様見たことあるよ」
ぴくっ・・・・
「確か、もう十何年もまえだけど・・・何処からか入って来たカエルが姉様に
飛びついて・・・・それで・・・あっ!」
「なるほど・・・覚えていて、なお、あんな悪戯をしたのですね?」
あんな、とは、この前の件だ。(悪戯珍騒動。筆者の作品)
わざとではない、と弁解したし、ウルトもまた、
早く忘れてしまいたい出来事だった為、咎めはしなかったのだが・・・
「そういえば、先程ムントも貴方を捜していましたね・・・
何をやったかは知りませんが・・・其の事も交えて、ゆっくり話しましょうか」
がしっ。
「ヤだヤだヤだ―――――――――!
アルちゃん、ゆずっち、助けて――――――!」
そう言われても、アルルゥ達にはどうする事もできない。
「それでは、アルルゥ様、ユズハ様、失礼します」
そう言い、ウルトもまた、カルラと同じように去って行った。
・・・カミュを、引きずるように連れて・・・・
こうして、彼女達の試みは、幕を閉じた。
〜あだ名、再び〜 終章
(〜翌朝〜)
「・・・よう。『大木』」
「なんだ。・・・『瘠せちび』」
「ふっ…」
「はっ…」
バチバチバチ・・・(視線がぶつかる音)
「お二方、食事中です。お静かに願いたい」
「「うるさい、この『うっかり大将』が!!」」
「(プチン)・・・・・・・・・クケ―――――――――――!!」
「「ぎゃ――――――――――――――!!」」
「う・・・届かない・・・」
「・・・どうぞ。ユズハ様」
「・・・ありがとうございます・・・べなちゃん・・・」
「・・・・・・・」(汗)
「ウルポン。今朝はよく眠れまして?」
「・・・ええ。お陰様で。・・・カルゴン」
「そう・・・・」
「ふふふ・・・」
バチバチバチ・・・(再び(同↑ )
「ね、姉様…怖いよ――――――――!」
「これ食べる。セバスチャン」
「・・・いえ、私はそんな名・・・」
「食べる」
「・・・・・・はい・・・・」(泣)
「・・・・・何か、今朝はやけに賑やかだな」
「・・・そうですね」
次の日の朝食時。
なにも知らず、不思議そうな顔をしているハクオロ。
彼の体は、何故か包帯だらけだ。
エルルゥは、事情が少しわかっているだけに、苦笑いしていた。
・・・こうして、トゥスクルではしばらく、
それぞれのあだ名で呼び合うのが流行ったと言ふ。
(完)
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